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COLUMN

2021.02.21

不安と共存して「心地よい」を見つける旅

  • 連載:楽園は、いつも側に精神の深くにある。

私は仕事終わりと休みの日に絵を描いています。
自分が思い描く「楽園」を想像して、私の心内に残る、旅した経験や感動した出来事、美しいと思うものを考えてかいてきました。

日々の生活はとても大変で、一筋縄ではいかず、生きることは本当に凄いことだと思います。

私はまだ絵を続けたい、
自身の精神の綻びが、自由になり
また家族友人、絵を見てくださる方に感謝をこめて。
安息を届けたいからなのだと思います。

楽園について、考える。

私は子供の頃に、先人の画家の絵を見て
絵の中に衝撃的な安息感と、楽園の様子を思い浮かべた。
確かに絵には楽園があって、絵描く線が
音楽のように流れ、息づいていた。
子供ながらに、地上にはないかもしれないと思っていた。

絵が好きな気持ちのまま
大人になり、社会に出てさまざまな事を知り
私は多くの事に対して、他の人よりも出来ない事に、気がついた。失敗ばかりで、自分の不甲斐なさに罪の意識を感じるようになった。しかも私はまだ、絵をかいている。
繰り返し聞かされた、私が「普通に」生きていくには、より努力が必要であり、人に迷惑をかけないように注意深く過ごすことを心に言い聞かせていた。
しかしこの観念が強く働くのか、何度も確認を繰り返したり、心配事が頭から離れなかった。

そんな数年前のある朝、
変な汗が流れてきてとまらない。
過去の心配事が溢れかえり、頭が真っ白になった。

しばらくして、体調が落ち着いてきたとき
友人の勧めで、少し休むことにして
旅に出ることにした。

行き先は海外の島
空港についたとき、あまりの湿度の快適さに驚いた。
バスにゆられながら、外を見ていると
空は晴れているのに、雨が少しふっている、でも全然
寒くない、蒸し暑くもない、過ごしやすい気候だった。

ホテルについてベッドで横になっていると、
クッションから甘い香水のような香りがして、
部屋に流れる音楽と天井のシーリングファンがうねるように回っている。
スーパーで買った酒とハムやパンを食べながら
その日は1日ホテルで過ごした。

このホテルの部屋は、布団や枕がふかふかだし、いい香りがする、寒くもないし暑くもない。
知らない環境と魅力的な部屋で、混乱したが、
しばらく寝そべっていると、私の精神に宿る、無数の不安の感情が一定になり穏やかになっていくのを感じた。

旅を終えて、私は、仕事をしながら絵を描いている。
旅の記憶を思い出しながら。

困難な今、事態が収束したとき
楽園を感じた「あの場所」に出かけたいと願う。

PROFILE

  • アーティスト
    長谷川海

    女子美術大学卒業。日常や旅行で感じたことを想像して絵をかきます。何気なく感じる非日常的な風景に惹かれます。また生活している時に感じたリラックスや休息をテーマに制作もしています。
    「ボクのビーチはときどきうかぶ 」(RiverCoffee&Gallery/本郷、2018)、「長谷川海展」(スパイラル/南青山、2019)。第20 回グラフィック「1_WALL」都築潤審査員奨励賞。第213 回 イラストレーション ザ・チョイス入選。JAAT「100人10」展選出。

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