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空気の日記

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oblaat

新型コロナウイルスの感染拡大により、街の様子がすっかり変わりました。
多くの人々が、せいぜい悪性のかぜみたいなものだと思っていたのはほんのひと月前で、社会の空気の変化に驚いています。
未曾有の事態なので様々な出来事は記録されていきますが、こういう時こそ、人々の感情の変化の様子をしっかり留めておくべきではないかと思いました。
「空気の日記」は、詩人による輪番制のweb日記です。その日の出来事とその時の感情を簡潔に記していく、いわば「空気の叙事詩」。
2020年4月1日より、1年間のプロジェクトとしてスタートします。

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oblaat(オブラート)は、詩を本の外にひらいていく詩人の集まりです。
http://oblaat.jp/

「空気の日記」執筆者

  • 新井高子
  • 石松佳
  • 覚和歌子
  • 柏木麻里
  • カニエ・ナハ
  • 川口晴美
  • 河野聡子
  • さとう三千魚
  • 白井明大
  • 鈴木一平
  • ジョーダン・A. Y.・スミス
  • 田中庸介
  • 田野倉康一
  • 永方佑樹
  • 藤倉めぐみ
  • 文月悠光
  • 松田朋春
  • 三角みづ紀
  • 峯澤典子
  • 宮尾節子
  • 山田亮太
  • 四元康祐
  • 渡辺玄英

新井高子、石松佳、覚和歌子、柏木麻里、カニエ・ナハ、川口晴美、河野聡子、さとう三千魚、白井明大、鈴木一平、ジョーダン・A. Y.・スミス、田中庸介、田野倉康一、永方佑樹、藤倉めぐみ、文月悠光、松田朋春、三角みづ紀、峯澤典子、宮尾節子、山田亮太、四元康祐、渡辺玄英

  • 4月1日(水)

    玄関先の
    古紙回収のトイレットペーパーが盗まれた
    志村けんが亡くなって三日目
    追悼番組を見て笑った
    これからどうなるのだろう
    都立高校の新学期はもう一ヶ月伸びるそうだ
    学校に行かない子供たちは着替えもしない
    加害者になるなという声が大きくなり
    都知事は夜の酒場に行くなといい
    カラオケとライブハウスに行くなという
    当事者には処刑の宣告に聞こえるのではないか

    新型コロナウイルスの致死率は2~3%とされていて
    これは騒ぎがはじまった当初と変わらない
    変異したのは我々で
    遠くの2~3%と
    すぐそばの2~3%では
    こんなにも違うのだ

    ことしの桜は早々と咲き
    ふしぎと散ろうとしない

    全世帯にマスクを2枚ずつ配ると
    マスク姿の首相が発表した

    東京・世田谷
    松田朋春
  • 4月2日(木)

    今朝も
    スマホのアラームが鳴り

    5時に目覚めた

    すぐ
    腕を伸ばす

    アラームを止める
    しばらくそのままで

    天を見ている

    それから
    女と犬のモコを起こさないよう
    そっと
    布団をずらす

    ベッドを
    抜けだす

    トイレから戻ると

    すぐに
    本の部屋の窓を開けて
    空気を
    入れかえる

    昨日の
    4月1日の夕刊に
    「世界の死者 4万人越す」
    と見出し

    新型肺炎の死者だろう

    その夕刊に
    谷川さんの「からっぽ」という詩が載ってた

    詩は
    からっぽの
    平らな皿にのせた
    空気か

    窓を開けて
    朝の風を入れた

    ※志村けんが亡くなって日本人には新型コロナウイルスの怖さが浸透した。
    すぐに関係している小学校の休校が決まった。

    静岡・用宗
    さとう三千魚
  • 4月3日(金)

    毎朝 起きる とどこおりなく
    洗濯機がまわって
    食器を洗う手が
    とても 乾燥している

    ほら 部屋のなかで
    わたしたちは常に凝視している
    いや そうじゃなくて
    ほんとうにちがう、うるさい

    失せた食欲と
    ずいぶん乗っていない地下鉄
    飛行機に乗ったのは
    たしか一カ月まえで

    検討したり 意向を示したり
    方針をかためたりするあいだ

    ようやく雪解けて
    かるくなった足が
    町へ向かわない
    明日からも 静かな週末

    次第に
    こころがちいさくなるから
    植物に水を与えて 触れる
    きみたちはつよい

    ※北海道緊急事態宣言36日目

    北海道・札幌
    三角みづ紀
  • 4月4日(土)

    どうして部屋が散らかってても平気なの
    、て

    週末の朝から昼にかけて
    ぼくとうたの怠惰にして割とおだやかだった
    春休みの日々を
    家族会議にかけることになって

    きみは眼鏡ごしに
    しごくまっとうな怒りと疲れを目に浮かべ
    リビングの真ん中に
    夕べからずっと積まれてる洗濯物を
    見たり見なかったりしている

    畳むのは
    うたの仕事ではあるけれど
    仕事部屋の畳の床に
    本や資料や書類を積んでは崩れさせっぱなしで
    今週も約束の掃除機をかけ忘れた
    ぼくとよく似て
    気が向いたらやるのは
    言われるまでしないのと同んなじだから

    きみだけが心底から
    土曜日の家を
    気持ちのいい空間に変えたいと願ってる

    ぼくはといえばこの島の先行きが気が気でなくて
    四月の今日の清明からはじまる
    シーミーという親戚ぐるみ島ぐるみの供食の慣らいが
    願わぬ結果を招きはしないか案じていたら

    今年のシーミーは中止です
    、て従妹から連絡が届いてた

    それぞれ得意な家事をしようと
    どうにか会議が
    笑い交じりにまとまった後で

    沖縄・那覇
    白井明大
  • 4月5日(日)

    Society 5.0が攻めてくる
    すべてがアイティー化された情報化社会

    きょうからはじめましての講義はバーチャル化
    体育実技もバーチャル化
    期末試験もバーチャル化

    すべてはバーチャル空間に移されまして
    Zoom, Zoom, Zoom, ……

    春一番に
    解体される大学
    概念としての大学
    が残るか

    Zoomソフトウェアによるバーチャル講義
    についてのZoomによるバーチャル講義をやりましょう
    情報システムエンジニアはものすごいハイテンション
    学部から学部へと飛び回る

    まったく
    すごい風が吹いている

    3つございますGoogleメールアカウントはこのように使い分けます
    ログイン間違えると所定の機能が発揮できません
    Zoomでも出席をとる方法があるんですって
    え、知らなかった、そうなんですか、教えてください
    そうしてPowerpointの画面をボタンは送信する、これ

    ウイルスの脅威はフィジカルの最たるものなのに
    ますますバーチャル化する観念
    その地平。空間。事物。

    連携する、
    すごく楽しい、
    だが
    コンセント一本ぬかれたらすぐに終わってしまう
    Society 5.0
    (バックアップ電源はありますけどね)

    それは
    呼吸がとまったら
    まっさきに終わってしまいそうなおれたち、
    おれたちのつむぐ
    思想も

    この春のはかなさの
    ほろ苦い
    タケノコのような
    比喩
    として

    ※「Society 5.0とは、AIやIoT、ロボット、ビッグデータなどの革新技術をあらゆる産業や社会に取り入れることにより実現する新たな未来社会の姿」(経団連)。勤め先の大学では、第一に授業のオンライン化が急がれた。

    東京・本郷
    田中庸介
  • 4月6日(月)

    私は宣言するだろう。
    望まれた休暇と労働のために。
    適切な距離を保ったまま
    息を止めるひとりのために。

    *4月7日、緊急事態宣言が発出される。

    東京都・調布
    山田亮太
  • 4月7日(火)

    春のニュースが流れる執務室はしんとして
    みな少し俯き
    静止しているように見えた
    窓を開け放っていたので
    航空機の音
    それから鳥の鳴き声が聴こえてきた
    羽のあるもの
    誘惑をする
    ✳︎
    飛行機雲が見えない
    けれども
    先日買った古本が
    ポストに届いていた
    『在りし日の歌』の復刻版だ
    中也の帽子は
    羽のようだから
    この空にみずから飛び立つことだろう
    ✳︎
    子どもの頃
    空気の色が透明だから
    透明のことを「空気色」と呼んでいた
    決して目に見えることはないが
    春は羽ばたき
    遊歩道に
    花びらを散らして
    たくさんの証拠を残した

    福岡・博多

    石松佳
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