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空気の日記

さとう三千魚

  • 4月2日(木)

    今朝も
    スマホのアラームが鳴り

    5時に目覚めた

    すぐ
    腕を伸ばす

    アラームを止める
    しばらくそのままで

    天を見ている

    それから
    女と犬のモコを起こさないよう
    そっと
    布団をずらす

    ベッドを
    抜けだす

    トイレから戻ると

    すぐに
    本の部屋の窓を開けて
    空気を
    入れかえる

    昨日の
    4月1日の夕刊に
    「世界の死者 4万人越す」
    と見出し

    新型肺炎の死者だろう

    その夕刊に
    谷川さんの「からっぽ」という詩が載ってた

    詩は
    からっぽの
    平らな皿にのせた
    空気か

    窓を開けて
    朝の風を入れた

    ※志村けんが亡くなって日本人には新型コロナウイルスの怖さが浸透した。
    すぐに関係している小学校の休校が決まった。

    静岡・用宗
  • 4月25日(土)

    昼前

    マスクをして

    女と
    スーパーに行った

    野菜と肉と白子と若布とお煎餅と
    お稲荷さんと

    買った

    ホワイトホースも買った

    スーパーに
    マスクをした人たちはいた

    花屋で

    白い花の紫陽花の鉢植えを買った

    お稲荷さんと
    紫陽花は

    義母の仏前に供えた

    もう母の日か

    午後から
    英会話のレッスンをして

    夕方
    犬のモコを連れて散歩した

    風が強かった

    外は
    まだ明るかった

    近所の橋本さんの奥さんと立ち話をした
    今日も風が強いわね

    言われた

    わが家に布マスクはまだ届いていない
    西の山に日は落ちた

    山が

    濃く青い

    ※4月28日・29日・30日に美学校で予定されていた香港民主化運動を支援するイベント「Happy Hong Kong 2047」が延期となった。代わりに4月29日19時49分から香港、日本、タイ、ブラジルで同時に香港に向けてイベントを行うことになった。私も用宗海岸でロウソクを灯し自作の詩を朗読した。

    静岡・用宗
  • 5月18日(月)

    雨が

    降る
    前に

    モコと散歩にいった

    夕方
    近所を歩いてきた

    大風が近づいているのだという

    帰ると

    TVニュースで
    検察庁法案 今国会見送りという

    この国の首相が
    誠実に国民に説明を尽くすと言っている

    わたし
    今日

    チェット・ベイカーを聴いてた

    Almost Blue を聴いてた

    Almost
    Almost

    Almost
    Blue

    チェット・ベイカーが歌っている

    ほとんど
    ほとんど

    ほとんど
    ブルー

    そう 歌っている

    今日
    仕事はなかった

    Almost Blue を聴いてた

    布マスクが届いていない

    ※近所の団地の10階に住むおばさんにコロナに良いと聞いたビタミンDと膝に良いというグルコサミンを届けた。玄関のドアの前でおばさんと立ち話をした。おばさんの話はいつまでも終わらなかった。最近、誰とも話していないのだろう。

    静岡・用宗
  • 6月10日(水)

    女は
    白いクルマで

    仕事に行った

    モコを抱いて
    見送り

    家の
    前の道路の

    側溝の
    蓋の

    隙間の

    苔と
    ヤブタビラコに

    水を
    やる

    それから
    庭の

    金木犀と南天にも

    ホースで
    水をやる

    ほとんど

    毎日
    そうしてる

    アメリカでは
    黒人の若者が

    「I can’t breathe」

    そう
    言って

    死んでいったという

    香港では

    「いまはとっても怖い、
     すごく怖いです。
     でも、だからこそ、声をあげることは、今やらなければいけない。
     私たちは、絶対に沈黙しません。
     抗議の声を上げ続けます。」*

    そう
    周庭は

    言っている

    答えのでない問いの前で若者たちも
    大人も

    いま
    生きようと

    してる

    夕方
    午後からの雨は止んだ

    ポストに布マスクが届いていた
    宛名はなかった

    ※Agnes Chow 周庭 の twitterより引用

    ※やっと我が家にも国が支給した「布マスク」が二枚、届いた。マスクには昭和の懐かしい面影があった。
    このマスクを各戸2枚配布するのに国民の税金が466億円が使われたのかと思うと悪い冗談に思えた。

    静岡・用宗
  • 7月3日(金)

    六月の
    終わりか

    世界の死者50万人 感染者1000万人


    新聞の見出しが
    あった

    50万人の死者
    1000万人の感染者

    その数の人の姿を思い浮かべることができない

    家族と
    会わず
    死んでいった
    焼かれた
    焼かれず埋められた

    一昨日

    7月1日

    庭で
    ゴミのポリバケツに二匹のナメクジを見つけた

    香港国家安全法
    施行された

    NHKの夜のTVニュースで
    香港の
    陳式森をみた

    300人以上が拘束された
    9人の逮捕者がでた

    逮捕者に重刑が科されるという

    今朝
    7月3日

    雨はやんだ

    ゴミ出しにいった

    モコは
    ついてこなかった

    ナメクジはいなかった
    ポリバケツ

    銀色の光る道を残していた

    ウイルス
    生を媒介する

    ※7月1日に香港で「香港国家安全法」が施行された。NHKの夜のTVニュースで「国安法」に抗議する香港の市民デモの映像が流れた。その中に香港の詩人、陳式森をみた。

    静岡・用宗
  • 7月26日(日)

    雨が続いている

    西の山は
    雲に

    隠れている

    いつも

    隠れている
    連休の最後の日だった

    7月26日
    日曜日

    夜来の雨はやんだが
    また

    降っている

    散歩にも行けない
    居間のソファーにいる

    モコといる

    女は
    エアロビに出かけていった

    仏壇の

    盆飾りを片付けた
    仏間と居間に掃除機をかけた

    もう

    感染者数も
    死者数も

    数えない

    驟雨

    雨は突然
    降りはじめて降り続いて

    やんだ

    雨音に
    モコは震えていた

    震えるモコを抱いた
    あたたかい

    ※香港の民主化運動を支援するTシャツ「暴徒ではない!暴政だ! 香港人」(陳式森の書)を浜風文庫’s STOREで販売を開始した。荒井真一くんがたくさん購入してくれた。コロナも民主化弾圧も温暖化も、すべて人間の問題だ。

    静岡・用宗
  • 8月17日(月)

    今日も

    浜松で
    気温が40°Cを超えた

    この辺りでは
    そこまでいかない


    木蓮と

    南天と金木犀
    あじさい

    ヤブタビラコに

    水をやった

    緑が水を受けて光ってた

    光って
    凉しくなる

    入院している秋田の兄に
    LINEを送った

    「いま浜松で40°だって!
     猛暑というか灼熱だね。

     モコと冷房の効いた部屋にいるよ。」

    兄が入院してひと月がたったが
    面会することができない

    「それよりそちら、コロナ大丈夫? 気をつけてね。」

    兄から
    LINEの返信が届いた

    ウイルス

    生を媒介してひろがる

    生は分断され
    試されている

    ※秋田の大学病院に兄が入院した。LINEで海や花の写真を送ると兄から返事がきた。
    「それよりそちら、コロナ大丈夫? 気をつけてね。」面会できない兄からの言葉が沁みた。

    静岡・用宗
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