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ニューヨークと東京でアートに関わる活動をする戸塚憲太郎が、ニューヨークの日常で感じること、手がけるプロジェクト、その他諸々を不定期にお伝えします。

5月最後の週末はメモリアルデーウィークエンドと呼ばれ、アメリカでは特別な週末となっている。本来戦没者のための追悼記念日だが、新緑が眩しい公園でピクニックやバーベキューを楽しんだり、ビーチが解放されたりと、この日を境に夏が始まるというのがアメリカでの共通認識だ。
しかし、もちろん今年は様子が違う。気候が良くなるにつれ外出する人も増え、開いている公園には多くの人が集まったが、ニューヨーク市では未だStay-at-home orderが続いており、この原稿を書いている5月25日から外出制限10週目に入った。

本来観光客で賑わっているはずのソーホーの様子。5月20日撮影
閉店中のLOUIS VUITTONの防犯用バリケード。ソーホーのほとんどのブランドショップはこのようなバリケードを設置し、そこには安全と健康を願うメッセージが書かれている。5月20日撮影
メモリアルデーウィークエンドで賑わうブルックリンのプロスペクトパーク。5月24日撮影

2016年から人生2度目となるニューヨークでの生活を始め、4年が過ぎた。90年代後半から7年に及んだ1度目のニューヨーク生活では9.11も経験したが、犠牲者の数だけ見れば今回のコロナの方がはるかに多い。スマホもSNSもなかった当時の情報源はテレビが主で、全体像を理解するのに時間がかかったが、今回は当時とは比較にならない情報とイメージが溢れている。市からは毎日スマホに直接情報が届き、Facebookは様々な情報で埋まり、インスタにはクオモ州知事の定例会見の様子から自宅のZoom飲み会の画像まで並ぶ。

NY市から送られてくるメッセージ。「食べ物は持ち帰りで購入してレストランをサポートしよう」、「ビーチは歩くか座るだけ。泳いだりバーベキューは禁止です」、「気候が良くなって来ましたが、他人と2mの距離を取ること、マスクを忘れずに」など。

ニューヨークでもマスクをしたり、帰宅したら靴を脱いで手を洗うなど、日本では当たり前のことが「ニューノーマル=新しい日常」となる中、先日のNew York Timesで化粧品の売り上げが大幅に落ちたという記事を読んだ。外出もできず店舗も閉まっているので当然だろう。しかし2017年以降化粧品の販売はすでに鈍化し、多くの消費者がスキンケアに重点を置いていること、より自然な方向にシフトしていることが指摘されている。スキンケア製品の売上高は過去3年間増加傾向にあったがここ数週間で初めてメイクの売上高を上回ったとのこと。

化粧品市場の一例のように、コロナによる変化というのは私たちがすでに向かっていた方向に少しスピードを上げて向かうということかもしれない。成長より還元、経済より環境、消費より節約、また働き方への意識の高まりに見られるような、会社や仕事に縛られ過ぎない生き方など、コロナをきっかけに全く新しい世界が生まれるということではなく、薄々気づいていたことにいよいよ真剣に向き合う時が来たということだろう。

日本では政府の対策や、休業補償に対する海外諸国との対応の違いなどが指摘されつつも緊急事態宣言は解除され、経済が再開しつつある。きっと表面的にはすぐに元の日常に戻るだろう。しかし、コロナをきっかけに浮き彫りとなった矛盾や問題に対して、どのように自分が変化できるか、自らをアップデートできるかを考え続けようと思う。

PROFILE

  • 戸塚憲太郎

    1974年、札幌生まれ。武蔵野美大卒業後、彫刻家を目指し渡米。2004年、アッシュ・ペー・フランス入社。同社が運営するクリエイティブイベント「rooms」のディレクターを経て、2007年表参道にhpgrp GALLERY TOKYOを開設。若手アーティストの為の新たな市場を作るべく、独自のアートフェアや商業施設でのアートプロジェクトなどを多数プロデュース。現在はニューヨークを拠点に、展覧会キュレーションやアートプロジェクトのディレクションなどを手がける。

  • 空気の日記
  • エマらじお
  • 交換日記 凪
  • utakata
  • Spiral Schole
  • 妄想ヴォイスシアター
  • アトリエおよばれ
  • TEXTILE JAPAN FOR SPINNER
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