ニューヨークと東京でアートに関わる活動をする戸塚憲太郎が、ニューヨークの日常で感じること、手がけるプロジェクト、その他諸々を不定期にお伝えします。

5月最後の週末はメモリアルデーウィークエンドと呼ばれ、アメリカでは特別な週末となっている。本来戦没者のための追悼記念日だが、新緑が眩しい公園でピクニックやバーベキューを楽しんだり、ビーチが解放されたりと、この日を境に夏が始まるというのがアメリカでの共通認識だ。
しかし、もちろん今年は様子が違う。気候が良くなるにつれ外出する人も増え、開いている公園には多くの人が集まったが、ニューヨーク市では未だStay-at-home orderが続いており、この原稿を書いている5月25日から外出制限10週目に入った。



2016年から人生2度目となるニューヨークでの生活を始め、4年が過ぎた。90年代後半から7年に及んだ1度目のニューヨーク生活では9.11も経験したが、犠牲者の数だけ見れば今回のコロナの方がはるかに多い。スマホもSNSもなかった当時の情報源はテレビが主で、全体像を理解するのに時間がかかったが、今回は当時とは比較にならない情報とイメージが溢れている。市からは毎日スマホに直接情報が届き、Facebookは様々な情報で埋まり、インスタにはクオモ州知事の定例会見の様子から自宅のZoom飲み会の画像まで並ぶ。

ニューヨークでもマスクをしたり、帰宅したら靴を脱いで手を洗うなど、日本では当たり前のことが「ニューノーマル=新しい日常」となる中、先日のNew York Timesで化粧品の売り上げが大幅に落ちたという記事を読んだ。外出もできず店舗も閉まっているので当然だろう。しかし2017年以降化粧品の販売はすでに鈍化し、多くの消費者がスキンケアに重点を置いていること、より自然な方向にシフトしていることが指摘されている。スキンケア製品の売上高は過去3年間増加傾向にあったがここ数週間で初めてメイクの売上高を上回ったとのこと。
化粧品市場の一例のように、コロナによる変化というのは私たちがすでに向かっていた方向に少しスピードを上げて向かうということかもしれない。成長より還元、経済より環境、消費より節約、また働き方への意識の高まりに見られるような、会社や仕事に縛られ過ぎない生き方など、コロナをきっかけに全く新しい世界が生まれるということではなく、薄々気づいていたことにいよいよ真剣に向き合う時が来たということだろう。
日本では政府の対策や、休業補償に対する海外諸国との対応の違いなどが指摘されつつも緊急事態宣言は解除され、経済が再開しつつある。きっと表面的にはすぐに元の日常に戻るだろう。しかし、コロナをきっかけに浮き彫りとなった矛盾や問題に対して、どのように自分が変化できるか、自らをアップデートできるかを考え続けようと思う。
PROFILE
PICK UP
-
SERIES
連載:ZIPPEDを振り返る
喋ってはいけない劇場で、語り続けるために/公演レポート Vol.12021.03.30
-
SERIES
連載:僕らはみんな、生きている!
私は、周りのパワーで生きている2021.03.17
-
COLUMN広がる記憶は砂紋のように
2021.03.08
-
DIALOGUESPINNER × 向田邦子没後40年特別イベント「いま、風が吹いている」特別対談 第1回 ミヤケマイ×前田エマ
2021.02.19
-
DIALOGUE遠山正道 × 前田エマ
2020.10.15
-
DIALOGUE槇文彦(建築家)× 前田エマ
2020.08.27