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COLUMN


東京から飛行機で1時間とちょっと。愛媛県は関東地方からふらりと行くにはほどよい距離、温泉もあれば海の幸、山の幸、みかんもおいしく、温泉もある。ちょっと旅行したいときにはピッタリの場所だ。3月上旬のある日、ちょっと春を感じたくて松山と今治を中心に回ってみた。

 翌日は雨模様。まずは以前から気になっていたお寺、石手寺へ。石手寺は鎌倉時代に作られた国宝の仁王門を擁する四国八十八箇所霊場の第51番札所のお寺。そして、ちょっと一風かわったことでも知られている。

なにせ、境内に入る前から不思議な像ばかり。様式が異なる若干プリミティブな石像、木彫りの像が境内にランダムに配置されている。揃えようという意識が全く感じられないのがすごい。

 そして、置かれているものすべてが、どことなく不穏。お寺としてはそんなつもりは全くないとは思うので、こちらの受け止め方の問題なのだけれど……。

 でも、この不穏な感じゆえに、ただボーっとしていられず、「お寺が何を訴えたいのか」を、きちんと受け止めなければと真剣に考えたくなってくるから、ずっといたくなってくるのが面白い。

 ちなみに、暗くて写真が撮れなかったものの、石手寺には地底マントラという、胎蔵界と金剛界を体感できるトンネルもある。トンネル内には無数の地蔵と仏の教えが書かれた看板が配置され、仏の教えを学べるものなのだけれど……、とにかく怖さと怪しさが爆発した空間だった。

 とにもかくにも、このお寺は時間をかけて敷地内をじっくり見たい場所だと思った。今度きちんとリベンジしたい。

 そんなこんなで、濃ゆい石手寺を後にしたら、車で東へ。雨でもしまなみ海道のドライブはなかなか楽しい! 訪れたのは瀬戸内海の中央に位置し大三島。

 大三島は古くから歴史ある「神の島」とされ、島内の大山祇神社は戦いの神としての信仰を集め、膨大な量の国宝&重要文化財の武具甲冑を保有している、刀剣好きはマストでお参りしたい神社。

 そして、近年は、ちいさな島でありながら美術館が3つもあるというところでも注目を集めている。今回は、この3つの美術館を訪れてみた。

 まず訪れたのは、ところミュージアム大三島。篤志家の所敦夫さんがコレクションした現代美術作品専用のミュージアムで、所さんが美術館を作ってまるまる今治市に寄贈したという太っ腹な施設。みかん畑の中の斜面に建てられた小さな美術館で、ジャコモ・マンズーやノエ・カッツなど、国内外の人気彫刻作家の作品が展示されている

 晴れた日は美術館から瀬戸内海の美しい海を眺めることができるという絶景の美術館。晴れた日にまた行こう。

 続いて、

今治市伊東豊雄建築ミュージアムへ。その名のとおりせんだいメディアテークなどを手掛けたことで知られる伊東豊雄の設計したミュージアム。

 展示を中心とした「スチールハット」、ワークショップやリサーチを行う「シルバーハット」というふたつの建造物で構成されている美術館もまた海のそば。

晴れてさえいれば、絶景なんだけれども、でもこれはこれでステキです。

そして、お土産にレモンをいただいてしまう。とても爽やかな香りです。ほんとうにありがたい。

そして最後は、岩田健母と子のミュージアム。「母と子」をテーマにしていた彫刻家の岩田健の作品が、半屋外の彫刻美術館。直径約30mの円形にめぐった鉄筋コンクリート壁の内側に彫刻が据えられていて、庇のついた壁側から内側を鑑賞するスタイル。ここも、晴れていると瀬戸内の青空と彫刻がステキな対比になっていたはず。ああ、天気がうらめしい!

 とはいうものの、やっぱり瀬戸内海は楽しい。道の駅ではいろいろな柑橘類がずらりとならぶ様は圧巻。

 思わず何種類も買い込み、家で食べ比べ大会までやってしまった。一番のお気に入りは、やっぱり愛媛果試第28号。流通形態によって紅まどんなであったり、媛まどんなであったり、呼ばれ方が変わる品種なのだけど、ゼリーを食べているかのような食感と味わい。酸味と甘味のバランスが絶妙! もっと食べに行きたいなー。

 そして、愛媛の最終日。この旅のメインイベント、IMABARI Color Show 2020「みんなで考える染色の未来」へ。IMABARI Color Showは、2017年からスタートした、今治の染色技術を紹介する展覧会。

 タオル生産で有名になった今治の繊維産業は、どうしても「織り」の技術に注目が集まりがちだった。でも、今治の繊維産業は「織り」だけじゃない。「染色」もすごいから、ここまでのクオリティの高いタオルが作れるようになった。このことをもっとアピールしよう! ということで始まったのがこのIMABARI Color Showなのだ。

 本来だったら、シンポジウムやワークショップが開催される予定で、それに参加するまんまんで来たのだけれど、残念ながら新型コロナウイルスの影響もあり中止に。とはいうものの、展示は続行されるというのでじっくり拝見することに。

こちらは、建築家でデザイナーのエマニュエル・ムホーの《1000色の波 2020》。この作品が展示されているのは、今治出身の世界的建築家、丹下健三の今治市公会堂 大ホール。ホールの客席に、1000色で作られる色の波の作品だ。

 きれいな1000色の色の下には、「丹下レッド」とも呼ばれる赤い色の椅子の布地がチラリとみえる。訪問者は舞台の上から眺めるかたちで作品を鑑賞する。会場にはゆったりとした音楽がながれ、神秘的な雰囲気。

 色があふれる会場全体を眺めているのも、一つ一つの鮮やかな色をじっくり見つめるのもどちらも楽しい。色がたくさんあるというだけで、こんなにも心がウキウキしてくるのはすばらしいこと。この作品を見るためだけに愛媛、そして今治に来てもよいぐらいだとしみじみ思った。

ということで、2泊3日の愛媛旅は楽しく終了。愛媛県はどんな場所にもアートなスポットがあるから、美術館好きには楽しい場所だ。たくさんの人に、この楽しさを体感してもらいたいな。

PROFILE

  • 美術ライター
    浦島茂世

    美術ライター。時間を見つけては美術館やギャラリーへ足を運び、国内外の旅行先でも美術館を訪ね歩く。著書に『東京のちいさな美術館めぐり』『猫と藤田嗣治』など。文化庁文化審議会博物館部会委員のほか、美術講座講師なども務める。

  • 空気の日記
  • エマらじお
  • 交換日記 凪
  • utakata
  • Spiral Schole
  • 妄想ヴォイスシアター
  • アトリエおよばれ
  • TEXTILE JAPAN FOR SPINNER
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