
COLUMN
- 2020.08.19
妄想ヴォイスシアター誕生秘話
- 対談:藤原佳奈(演劇家・mizhen代表)、秋山きらら(編集部)
- テキスト:秋山きらら(編集部)
7月10日(金)より、SPINNER内でスタートした企画「妄想ヴォイスシアター」。今回は、発起人である藤原佳奈(演劇家・mizhen代表)さんに、企画誕生にまつわるお話をオンラインにて伺いました。
共犯関係になれる体験の導線を設計する
S:今回、体験いただく際には、「○○さんは誰々役です」という配役があって、小道具や動作を指定しているんですよね。
藤原:参加する時に「役が与えられて俳優のセリフを聞く」という体験をやってみたいなと最初から思っていて。その役の状態になる、モードづくりみたいなのが大事だなぁと思っていたので、共犯関係になるきっかけとして、素の自分の行動ではない、その配役の行動として一個タスクを課すっていうことを身体のモードチェンジとして設定しました。
S:私は家にこもって映像を見ていたりすると、気付くと2-3個並行で情報を処理していてることが多くて。例えば、映画を見ていても連絡が来たら返しちゃうし、飲み物を取りに立ったり調べ物をしたりして、家にいると集中力が散漫になる。劇場がちゃんと集中して舞台を見れるように設計された、見ることに特化した施設だということはもちろんなんですけれど、“自宅にいたら注意散漫になる”。だから、逆に参加者の身体にちょっとした負荷を与えたほうが集中できるんじゃないかと思い、参加者にタスクを課すアイディアに賛成した覚えがあります。
藤原:そうでしたね!
S:その負荷をどこまで上げるか、バリエーションをどうするかという案がいろいろ出てきて。
藤原:それで一回、『みずとひmiztoy』のオンラインスナックに来ていただいた方と実験したんですよね。ラジオドラマの脚本を使って、お客さんに配役した上で、“何かを書く”という動作を、やるパターンとやらないパターンで試しました。私は、スナックのお客さんに何かをやる前に付き合ってもらって、どうですかって意見を聞くことが結構あるんです。それで実際にやってもらったら、動作があった方が「なんかすごい入り込んだ」という感想をいただいたので、「あ、これはやっていけるかもしれない」と思って。
S:役柄が女性だったのに、男性の方が体験しても、その人になりきった感じがあったという感想があったんですよね。
藤原:そうそうそう。年齢とか性別とか関係なくて、やっぱり配役された時にその役の感じを想像してしまうっていうのがあるみたいで。
S:そのお話を聞いた時に「あ!すごい、できるんだ!実験が早い!」とワクワクしました。
藤原:すぐに『みずとひ』のお客さんに頼っちゃう(笑)
人間ってみんな何かしらフィルターをかけてフィクションの中を生きてるなぁと思っていて。それはひろく言えば文化みたいなことだったりとか、何が正しくて何が悪くて、何が気持ちよくて何が不快だとかも含めて、みんな何かのフィルターをかけていると思っています。そのフィルターは、普段は“自分”って言う名前のフィルターだけだけれど、それを自分ではあるんだけれど“〇〇役の自分”というフィルターをかけてみて、5分間過ごしてみる。実際の俳優さんは、それを生業にしていますけれども、そういう、性別も他の部分も全然違う人のフィルターを一回かけてみるって言うのは、日常の中にあるとすごく面白いのかなと思います。
S:電気を消して、いつも生活している部屋のソファーに座って音声を流して体験していると、自分の身体に集中できると言うか、なにか見られてるかもしれないというちょっとした緊張感もあって。俳優さんの相手役になり切って台詞を聴くという感覚がなかなか新鮮でした。
今回、体験する時にタスクを課されるという以外にも、LINE公式アカウントでやり取りを重ねていった後に体験開始できるという方法になりましたが、劇場じゃなくなった時に何をどう導線設計して、観客の体験を作っていくのかということに、藤原さんはこだわりをもって作られているのかと思います。LINEを使ってやり取りを重ねて、ちゃんと主体的に参加するという行動を引き出したいという考えだと思うんですが、改めてなぜ入り口がLINEなんですか?

藤原:最初にスナックで“配役してみる”っていうのを試した時はZoomだったので、Zoomで一人一人のチャットに配役を書き込んでお知らせしたんですよね。その時、全員のチャットじゃなくて一人一人に送ったっていうのが体験の質として大きかったなという実感がありました。なので、あなたの配役はこれですっていうのがウェブページに書いてあって「ふーん」となるよりも、一人一人にメッセージを送れるシステムで、自分の名前と共に役名が並んで書かれているということをしたいなと思って。そうした時に、一番やりやすいツールがLINE公式アカウントなんじゃないかなと。
S:妄想ヴォイスシアターって、個人的な体験になるのがすごくいいですよね。劇場で観劇する時は、役者さんの演じる舞台があって、それに対して大勢が見ている構図だと思うんですけれども、それをインターネット上にそのまま持ってきちゃうと、先ほどのウェブページの例のように大勢の観客の中のone of themであって「私じゃなくてもいいな」と思ってしまう。それが、LINEを使って何かキーワードを送ったりアクションすると返答があるというシステムによって、自動ではあるものの、普段LINEを使っているモードで能動的な感じでできるのがいいな、この方法はもっと使えるなと思いました。
妄想力が強い人ほど楽しんでもらえる
S:総じて、妄想ヴォイスシアターは今までにあまりない構造を持った演劇だと思うのですが、どのように体験して欲しいですか?
藤原:妄想力が強い人ほど楽しんでいただけると思うし、妄想力が強い人ほど巻き込まれちゃうから、すごく切なくなり過ぎたり、ダメージを食らったりするかもしれないなぁと思います。演劇って薬ではないので、効用としては少し危険な部分もある芸術だと思うんですけれど、あなたの妄想力を存分に発揮してほしいし、妄想力が強いと自覚している人は覚悟してくださいという感じですね(笑)
S:確かに、セリフが与えられる配役ではないけれども、それこそ自分ナイズされたそれぞれの一作を、共犯関係の中でつくるっていう感覚ですもんね。
妄想ヴォイスシアターの思考の延長には
藤原:「私が好きなものは演劇である」ということではなくて、「私が好きなことは今演劇としか呼びようがないんだけれども、これは何だろうな?」という気持ちでずっとやっています。その中で今、声というものに焦点が当たっているところです。オンラインでやる作品っていうのは、リアルでやるものの劣化版ではなくて、オンラインでしかできない演劇体験だと思っていて。
今、家にいながらいろんなアプリだとかSNSだったりを使っている時の自分の身体も気になってきています。デザインの色だったりUIによって、人のモードって変わると思うんですよね。それに接している時のモードが変わると言うか。例えば、なにかクローズな感じがするとか、すごくひらいているっていう感じとか。もちろん人によって違うと思うんですけれども、なにか“こういう感じ”だなと受け取る感覚はあって。そういった身体のモードへの興味とか声への興味を考えていくと、演劇ってものを考える時に、自分が今まで演劇という言葉に縛られてたところがあったなと思いました。「自分がやりたいことが演劇としか名乗りようがないから演劇をやっているのだけれども」っていう時の、その“演劇”が指している言葉が縛られているなと。そう言う意味では、今、劇場で演劇をやれなくなってオンラインでやるとなって、それでもそれを“演劇”と呼ぶってことは視野が広がったと言うか、逆に本質的にやりたいことをもうちょっと見極めていけそうだなと思っているところです。

今やっている活動としては『ハウ・トゥ・ アートシンキング』(2019年・実業之日本社)という本を書かれた若宮和男さんが企画されている、leap2liveという企画にアーティストとして参加しています。そこでオンラインでパフォーマンスを届けるということをやっていて、依頼をいただいたら、リアルタイムでパフォーマンスさせていただくんですけれども、声から想像してもらうという仕組みで、生身の俳優はカメラの中には出てこないんですね。leap2liveに参加して、オンラインはリアルでやろうとしていたことの劣化版でもなくて、オンラインにしかできない演劇作品として考えていいんだ、と思うようになりました。そういった、言葉とか俳優の声とかを体験する形というのが、どういうふうに面白がれるかなっていうのが今の興味です。声や言葉を体験するっていうのが軸になると、それは別に劇場じゃなくてもいいし、一個の場所じゃなくてもいいし点在しててもいいかもしれないし。
初めて締め切りを考えずに新作を考え始めています。ちょっと時間がかかるかもしれないですけれども、“言葉の体験”というのをキーワードにしてつくっていこうかなと思っています。いつもだと劇場押さえるとか、予定を押さえて、そこに向けてやるという感じだったけれども、一旦予定と目標を無しにして考えてみようかなという感じです。アウトプットの仕方も何になるかまだ全然見えていないですし。
最後に
藤原:妄想ヴォイスシアターって、俳優さんとふたりっきりになる気分だなぁと思っていて、ある意味距離がすごく近い。音声コンテンツとしてWebページにあるから完全なリアルタイムではないんですけれども、声を聞くってすごくドキドキすることだなぁと、今やりながら思っているところです。私も演出したり稽古したり編集しながらドキドキしているので、一緒にこのドキドキを味わってほしいなと思います。
S:今後も妄想ヴォイスシアターは継続して、シリーズとして公開していきますので、まだ体験されてない方は過去作と合わせて体験してみてください!
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