© SPINNER. All Rights Reserved.

COLUMN

2020.08.19

妄想ヴォイスシアター誕生秘話

  • 対談:藤原佳奈(演劇家・mizhen代表)、秋山きらら(編集部)
  • テキスト:秋山きらら(編集部)

7月10日(金)より、SPINNER内でスタートした企画「妄想ヴォイスシアター」。今回は、発起人である藤原佳奈(演劇家・mizhen代表)さんに、企画誕生にまつわるお話をオンラインにて伺いました。

オンラインで行った藤原さんとの対談

S:まずは妄想ヴォイスシアター、第1~3回の公開おめでとうございます!(拍手)

藤原:ありがとうございますですし、おめでとうございます!

S:さっそくですが妄想ヴォイスシアターがどのようなコンテンツなのか、藤原さんからご紹介いただけますか?

藤原:妄想ヴォイスシアターは、名作の小説などを原案にした5分間の演劇作品です。参加方法が少し変わっていて、参加される方には配役をお渡しし、その役になりきってセリフを聞いていただきます。
具体的には、最初に“楽屋”に見立てたLINE公式アカウントのチャットルームに入っていただき、配役や小道具などをお伝えします。それを踏まえた上で妄想ヴォイスシアターの“舞台”としている音声コンテンツを、配役された役になって体験していただくものです。
通常こういった音声コンテンツは、ラジオドラマや朗読、リーディングなど、その物語や登場人物の台詞を第三者として覗き見するような視点で体験するものが多いと思うのですが、妄想ヴォイスシアターはその物語の登場人物として聞くというのが、結構新しい挑戦なんじゃないかなと思っています。

S:ラジオドラマ的に、音声でドラマが繰り広げられていく情景、こちらに話しかけられてるように身をもって体験できるということですよね。
ちなみに初回以降、反響などはいかがでしょうか。

藤原:音声をnote上に載せているのでそこからダイレクトにメッセージをいただくことがあるんですが、初日以降、早速感想が届いています。「作品に巻き込まれてしまう」「役になるというステップを踏んだせいか、すごく余韻が残った」「何か新しい体験をした」など、新鮮な体感だったという感想をたくさん頂きました。
地元・兵庫の友人は、普段そんなに演劇を見ない人なんですが、音声コンテンツでいつでも自分の時間に合わせて体験できるということが結構とっかかりやすかったようで、「こういう風に演劇の体験をできてすごく嬉しい」と言ってくれました。そこで“演劇の体験”とコメントしてくれたのがとても嬉しかったです。音声がどうこうではなくて。

S:“これは演劇だ”と感じて受け取ってくれたということですよね。
しかもそういった普段演劇に行きづらい人にまで、距離や習慣をこえて遠くまで届くっていうのが特徴というか、とても面白いところですね。

藤原:妄想ヴォイスシアターは初演の時間を掲載していますが、その時間以降はいつでも体験できるようになっています。私はLINE公式アカウントの管理画面から、何時ぐらいに体験しているのかというのを確認できるのですが、早朝にやっている人もいるし、深夜の人もいるしお昼間にやってる人もいるし、それがすごく面白いなあと思っています。

S:そうですよね。きっちり開演時間に始まるという、リアルな演劇の劇場での「型」が外れて、自由度も高まって体験できると。

妄想ヴォイスシアター誕生前夜

S:これまでを振り返りながら、妄想ヴォイスシアターの成り立ちやどうやって実現にこぎつけたのかお伺いできたらと思います。一番最初のやりとりを覚えていますか?
4月末に唐突に私が「オンラインスナック」やりませんかみたいなお声掛けをして。

藤原:そうですそうです、そうでしたよね。
私が松陰神社前で、毎週アーティストを呼んだりするスナックをやっているんですけれども、萩原雄太さんが開催したスナックで文化芸術基本法を読むという会に、(SPINNER編集部の)秋山さんが来てくださって。そのご縁で、自粛中にスナックをオンラインでやらないかというのが最初のお話でしたよね。

スナック『みずとひ-miztoy-』で行われた、文化芸術基本法を読む会の様子

S:SPINNERもちょうど4月に始まったところで、じゃあオンラインで何か企画できないかなと考えていたところでした。そこでリアルなスナックをやっていた藤原さんなら、演劇から派生して柔軟に考えていただけそうと思ってお声がけをしました。とは言え、そのままスナックをオンラインに移行するのはどうなのかな、どうしようかな……と迷いもあったんですが。そのあと意気投合して新しい企画が生まれたという感じでしたね。

文化の交わるスナック 『みずとひ-miztoy-』

S:私たちの出会いがあったスナックニューショーインがどんなところなのか、ご紹介いただけますか?

(左)スナックニューショーイン オープン前、準備に集ったオーナー達
(右)文化の交わるスナック 『みずとひ-miztoy-』

藤原:スナックニューショーインは1年前の5月にオープンした、曜日ごとにオーナーが変わるコンセプト型のスナックです。
はじめは「松陰神社前にあるスナックを活用しませんか」と呼びかけていたR65不動産の山本遼さんという方のTwitterを見たのがきっかけです。曜日ごとのオーナー制で、月曜日はうどんスナック、ボードゲームスナック、臨床心理士スナックなどがあります。私は……その、渋谷のジァンジァンに憧れがあって。わかりますか?

S:渋谷ジァンジァン……どこですか?分からないです!

藤原:私も行ったことないんですけど、伝説の場所があったんですよ。本当に素敵なゲストが毎回ラインナップされるライブハウスがあったらしく。美輪明宏さんはじめ錚々たるメンツが夜な夜な集まるというジァンジァンに憧れがありました。ただ、私が知った時はすでに閉店してたんですよね。その憧れがあったので、スナックニューショーインをそういう場所にできないかなと思って。
劇場に行くというのは習慣がない人にはハードルが高いので、「スナックに行く」というふりをすれば、これまで機会がなかった人でも、パフォーマーとかそういうアートに偶然出会っちゃうみたいな事故が起こせるんじゃないかなと思って(笑)、面白いパフォーマンスに出会えるスナックというものをはじめました。
毎週とか隔週でゲストを呼んで、ダンサーだったり、音楽家や、俳優や研究者の方を呼んで毎週木曜日『みずとひmiztoy』という名前でやっていました。
*『みずとひmiztoy』は2020年8月より、不定期で場所を選ばないスナックへ変態予定です。

『みずとひ-miztoy-』ゲストの方を呼んだイベントの様子

「何が無くなったら死ぬくらい嫌か?」から見えてきた構想

S:スナックニューショーインで出会う前から藤原さんの活動は拝見していて、劇場で所謂“演劇”と言われることをやっていくというより、演劇という手法を使いながら劇場の外にも出て柔軟に面白いことをされている方だなあと思っていました。最初にお話をした時、結構な瞬発力で「これは、音声コンテンツじゃないかしら」という話が出てきたと記憶しているんですが、前々からこういった演劇の体験のかたちは考えられていたんですか?

藤原:演劇っていうのはすごく面白そうだけど、体験するハードルがすごく高い。それをもう少しどうにか裾野を広げたいというのが、私が演劇を始める前から一番強く思っていたことなんです。そういう思いがあって、できるだけ演劇じゃない場所に演劇を食い込ませるというのを、隙を見て結構やっています(笑)。クライアントワークとして会社の経営者会議で演劇をやるっていうお仕事をしたりだとか、日経COMEMOで毎月記事を連載したりというのも、 演劇っていうワードを普段聞かない人にどれだけ擦り込むかっていう気持ちが元になっています。
演劇のハードルが高い理由として、劇場に行かなきゃダメだという背景があると思うんですよね。それに対して、なにかできないかなという思いがずっとあって、「本当に劇場だけで演劇をやるのがいいのかな」と本格的に疑問を持ち始めたのか2年前ぐらいです。そこから周りの人に協力いただいて、アパートでやったりとか、能楽堂でやらせてもらったりとか。そうしていくうちに、mizhenはもう劇場でやらないっていうルールにしちゃってもいいかなと思うようになって……。

(左)セルリアンタワー能楽堂で上演した『小町花伝』能楽堂公演の様子
(右)表参道の取り壊し予定のアパートで異ジャンルのゲストアーティストを招いたアートフェス『裏参道フェス』の様子

コロナで自粛しないといけないとなった時に、“自分にとっての演劇は何だろう”っていうのを多くの演劇の皆さんが考えていたと思うんですが、私も同じく考えていました。今も大変ですが、自粛し始めた頃って「本当に自分もいつ死ぬかわからないしなぁ」と人生をシリアスに考えていました。それで、何が無くなったら死ぬくらい嫌かということを考えたら、「演じている俳優の声を聞けなくなったらきつい」と思いました。それで、「あれ?私はもしかして声を求めているのか」とその時気づいて。今までの活動を辿ってみれば、歌を使った作品が多かったりだとか、何もないところに俳優の身体だけあるシンプルなほうが好きだったりだとか。そういったところは、声の関心に繋がっていたのだと思います。

「ワニのいない街で」というタイトルからはじめる、 俳優のモノローグ数珠つなぎ企画。

それで自粛中に、俳優の声を聞きたい欲が高まって『ワニのいない街で』という企画を始めました。今までお世話になった俳優さんや、好きな俳優さんに当て書き(役を演じる俳優をあらかじめ決めておいてから俳優に合わせて脚本を書くこと)をした、3分ぐらいの短いモノローグの音声コンテンツです。ただ「ワニがいなくなった」というところだけを最初に決めて、その後の展開も、登場人物も決めずに、ただ数珠繋ぎにモノローグを繋いでいくっていう企画を始めました。その時にすごく楽しかったんですよね。zoomを使って稽古して、声を聞いて。その声からどういう風にディレクションをしようかと考えたりするのがとても楽しかったんです。だからお話をいただいた時は、ちょうど「声のことをもっとやりたいな」と思っていたところでした。なので、今の妄想ヴォイスシアターの形を考えていたわけではないんですが、なにか声のコンテンツができるんじゃないかとは考えていました。

観客の想像力をもっと信頼する

S:早速、音声コンテンツでなにかできないかという案が出てきて、やりとりしていく中で、とても面白かったのは、藤原さんが「観客の想像力をもうちょっと信用できないか」と言われた時。普段は「劇場」という、演劇のための場所があって、そこに観客が集まって鑑賞するんだけれども、人が集まれなくなった時に、一人一人ステイホームで家にいる“そこの場所”に演劇をお届けするのか、そこに観客自身が劇場をつくるのか、そういう感覚を仰っていて、「それすごい!やりたい!」と思いました。

藤原:自粛になってからいろいろ考えていた中で、佐々木健一さんの『せりふの構造』(1982年・筑摩書房)という本を読んでいたんです。そこに、①舞台上での俳優同士の虚構の関係で話されている矢印(劇中人物同士の内世界的コミュニケーション)と、②舞台側と観客側を結ぶ矢印(劇世界と観客との芸術的コミュニケーション)の二本が両方出ている、それが演劇の台詞の構造なんだと書かれていました。それはオンラインの場合どう置き換えられるんだろう、オンラインだと、劇場ってどこになるんだろうって考えたのが今回の企画のきっかけです。
演劇をオンラインでやりましょうとなった時に、やっぱり映像を使うことが多いので、じゃあ「映画と演劇って何が違うんだろうね」ということをいろんな方が発信されてました。私は、演劇をやっていたとしても、映像を見て感じる面白さっていうのは、“映像を見た”っていうことになるんじゃないかなと思っていて。画面をはみ出した自分のいる場所とか、自分の身体のまわり、あるいは自分の身体の中に影響を及ぼすものが、演劇なんじゃないかと。デジタル化された音声の情報を聞いていても、俳優がどういうふうに発話するかによって、自分の身体に影響することって全然違うんですよね。例えば俳優の喉がしまっている声を聞いたら、聞いてる私も苦しくなっちゃうというような何かシンクロしたものが起こる。俳優がどういう身体の状態で、あるいはどういう声の向きやマイクとの関係性で発話しているのかというのを聞いている時、そこに俳優のリアルな肉体はないけれども、そのデジタルな音声情報だけでも自分の身体が勝手に想像するっていうのをまざまざと感じました。
これまで舞台上で生の人間が演じた、何かセリフを発したものっていうのを受信して、その目の前にあるものがすごいからそれに感動している、と思っていたんですよね。前にある生のもの、それが空気に伝わって刺激を与えていると思っていたんですけど、デジタル情報だけでもこっちの身体が反応するんだって改めて発見しました。小説とかも、文字を読んでるだけなのに、その人のキャラクターとか声とかの感じとかも勝手に妄想するじゃないですか。演劇も、そうやって受信する人の身体が作り出している。だから共犯関係。こっちの身体も駆使しなければいけない共犯関係を生み出すっていうのが演劇なのかなぁって思って。なので、いかに想像してもらうか、いかに妄想を楽しんでもらうかということを考えていけば、オンラインであっても、それはもう“演劇”になるなんじゃないかと。

S:映画は、自粛のために映像化されたわけではないので、いつも通り自分の見る態度が決まっているけれど、自粛によって生で見られなくなった演劇やパフォーマンスを映像で見ていると物足りないと言うか、私はどうやってこの画面を見ていたらいいんだろうっていう感覚がありました。なので、逆に映像に頼らず音声だけにしちゃった方が、藤原さんが仰るような演劇の力を十分に感じることができて。観客の想像力にもっと頼るということが、発想としてすごく面白いなと思っています。

PROFILE

  • 演劇家 mizhen代表
    藤原佳奈

    発話テキストの執筆、演出。
    2019年に取り壊し直前のアパートで『裏参道フェス』を開催、能楽堂で現代演劇を上演するなど、特定の場で湧き上がる体感と、作品の関係性に焦点を当て、演劇作品を創作。最近では、leap2liveに参加し、オンライン作品も上演。演劇を用いたワークショップや企業との共同企画を通して、身体の触発を生む場づくりも積極的に行う。

  • 空気の日記
  • エマらじお
  • 交換日記 凪
  • utakata
  • Spiral Schole
  • 妄想ヴォイスシアター
  • アトリエおよばれ
  • TEXTILE JAPAN FOR SPINNER
  • TEXTILE JAPAN FOR SPINNER