
DIALOGUE
「あやちょ」の愛称で親しまれ、アンジュルム及びハロー!プロジェクトに15年在籍し、2019年6月に卒業。同年8月からソロ活動を始めた和田彩花さん。和田さんは、西洋美術が大好きで大学院で美術史を専攻し、美術を人に伝える連載なども担当している。保坂健二朗さんは、国立近代美術館の主任研究員を務める、美術のエキスパート。同美術館では「フランシス・ベーコン展」(2013)をはじめ建築展などを多く手掛ける他、美術館外でもアール・ブリュットや建築、現代美術の展示に幅広く関わる。美術を広く人に伝える雑誌連載なども多数抱えている。物事をバシッと決断する和田さんと常に悩み続けている保坂さん、対照的な2人が共通する美術をキーワードに軸について語ります。
お互いに当事者にはなれないと思うんですが、相手のことを想像しながら、変な配慮ではなく、公正にジャッジしながらメッセージを提示するというのは、すごく難しいことだと思います。私たち観客は美術館が提示するキュレーションや作品で、新たに歴史を知ったり流れを知ることになる。
保坂:僕たちは美術をいろんな人に伝えたいと思っていて、例えば言葉で伝える以外に、展覧会として組み立てて伝えるっていうのがあるんですけど。この絵とこの絵を並べるだけで、見え方が変わるという。そこは興味ないんですか?
和田:展覧会にはそういうメッセージの伝え方があるんですね。考えたことなかったです。
保坂:でも、和田さんがライブをする時に、曲の順番を組み立てていったりしますよね? それと同じように、違う時代の全然違う国の作家の絵をあるテーマで並べてみたら、こういうことが伝わるだろうって考えながら展示を組み立てているんです。せっかく和田さんがいろんな人に美術の面白みを伝えようとされているんだったら、美術館側としてお願いしたいなと思うのは、一枚一枚の絵を見るだけじゃなくて、ぜひ展覧会の見方みたいなものも伝えてくれるとうれしいなと(笑)。
和田
わかりました! 並び方にも意図が込められているっていうのを知ると、また見え方が変わりそうですね。
保坂:ぜひお願いします。和田さんは、展覧会に行かない人に美術の面白さを伝えようとされているんですよね。いろいろな統計を見ると、美術館に行かない人って本当に多いんです。ある調査では、年に0回と1回しか展覧会に行かないという人を合わせると、7割くらいらしいんですよ。2回以上展覧会に行く人は3割、だから1回以下の人が7割なんです。信じられませんよね? 気軽に美術館に行く人からすると信じられないことなんですが、行かない人にとってみれば、0から1に増やすというのは容易なことじゃない。また、1回しか行かないっていう人は、何かのきっかけで行っただけで、おそらくその結果に美術館はつまらない場所だって思っている。だから二度目は行かないんですよね。0から1、1から2へとどうやって増やすかというのが我々の課題なんですが、和田さんはどうしたらいいと思いますか?
和田:私が美術をおすすめしていた当時のメンバーは、私よりも年下の子たちばかりで。単純にわからないから教えてっていう感じだったんです。なので、私がちょっと作品の経緯を話したり、もしかしたらこういう意味があるのかもしれないよと教えたりすると、みんな若いので好奇心旺盛で「すごーい!見たい!」ってなる(笑)。ちょっとしたことで面白がってくれる。

保坂:和田さんより若いということは10代っていうことですよね。10代で絵に触れて面白いと思ったら、きっとその後も続くでしょうね。
和田:大人を美術館に行かせるっていうのはなかなか難しそうですね。
保坂:そうなんですよ。20代〜30代。シビアな話になって申し訳ないですけど。ところで青山のスパイラル(※今日の取材場所)には来たことがありました?
和田:私は1度しか来たことがないです。現代美術の展示だったと思います。(「OKETA COLLECTION:LOVE @ FIRST SIGHT」2019年)
保坂:僕はここで解説のアルバイトをやっていたことがあって。学生の時に南條(史生)さん企画の展覧会で、現代美術の作家がオルゴールを作るという作品があったんです。そのオルゴールを巻く係として僕は会場にいまして、お客さんが望めば解説してもいいって言われたので、喜び勇んで解説していました。おまえ何者なんだって言われたりして(笑)。とてもいい体験になりました。場所柄、いろいろな人が見に来る、そこで現代美術って面白いんですよって話をするのがすごく楽しくて。学芸員をやりはじめたきっかけのひとつですね。
では、お二人の軸について話をお聞きしたいのですが。保坂さんは先ほどからぶれぶれだという話でしたが、和田さんはしっかりと軸がありそうに思います。
和田:軸って難しいですよね。私は一度決めたら一直線になってしまうタイプなので。もう、好きでしかないんですよね。とにかく好き好き好き〜っていうので美術の世界に入ってきたので、好きっていう気持ちを忘れることがなかった。軸なのかどうかわかりませんが、それだけのことです。
保坂:マネに飽きたりはしないんですか?
和田:マネは飽きません。でも美術の中でちょっとずつ関心のあるジャンルは変わっていて、最初の方は古典絵画が好きでしたが、最近は現代アートが好きですし。その関心は常に変わっていると思います。でも、マネが好きなのは変わりませんね。
保坂:現代美術だったらどういう作品を観るんですか?
和田:私は社会派な作品が好きで、Chim↑Pomの作品が好きです。あとは目[mé]も好きですね。
保坂:Chim↑Pomもマネもどちらも「アート」という同じ言葉で呼ぶことに関しては抵抗はない? もしどちらもアートなのだとしたら彼らを繋ぐ何かは何だと思います?
和田:(抵抗は)ないですね。それはどういうものかって定義をすることは難しいですが、アートって美しいだけじゃないと思うし、私はアートと接することがいろんな世界を知るきっかけになっています。Chim↑Pomの作品に触れることで、世界で起こっていることや日本で起こっている様々なものに触れることができる。ニュースで知るわけじゃなくて、作品を通して知るっていう。それこそ作品の持つ力だなと思いますし。そもそも作品を見て心が動かされているっていう実感があるので、これはアートなんだって思います。
保坂:和田さんは美術に限らず軸がしっかりしていますね。普段何かを選ぶ時の判断も早い方ですか?
和田:早いですね。好き嫌いがはっきりしているので。でも、そればっかりだとだんだん自分の視野が狭くなるので、気をつけるようにはしています。
保坂:うらやましい。後悔もしないっていうことですよね?
和田:しません。
保坂:僕は決断をした直後に、やっぱり逆にしない? とかって言って相手を怒らせてしまうことが多々あるんですけど。食事をする時とかも、いやさっき頼んだのを別のに変えてくださいって言ってしまう(笑)。自分が好きなものばっかり食べていると世界が広がらないと思うから、名前が面白そうだから頼んでみたりして。僕はレバニラが嫌いなんですけど、数年に1回くらい頼んでみるんですよ。自分も変わったんじゃないかと思って。でも、だいたいダメで後悔するんです(笑)。
和田:嫌いなところを敢えて攻めてみるって、すごいですね(笑)。私はあんまりそういうことはしないので。
保坂:それは学芸員の仕事もそうなんですが、すべてのことに対して自分自身が常に変わり得る、変わっていたいという希望があるんです。
和田:私は、とにかく好きっていう気持ちから始まっていて、美術についてもマネから始まって、好きな気持ちを突き詰めていったらどんどん進んで現代アートまでいく。好きで転がって前進していく感じなんだと思います。

(対談:2020年3月実施)
PROFILE
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- 東京国立近代美術館主任研究員
- 保坂健二朗
1976年生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(美学美術史学)修了。担当した主な展覧会に、「The Japanese House: Architecture and Life after 1945」(ローマ国立21世紀美術館、2016)、「Logical Emotion: Contemporary Art from Japan」(チューリヒ・ハウス・コンストルクティヴ美術館、クラクフ現代美術館他、2014)、「フランシス・ベーコン」(2013)、「Double Vision: Contemporary Art from Japan」(モスクワ近代美術館、ハイファ現代美術館、2012)など。主な著書に、『キュレーターになる!アートを世に出す表現者』(住友文彦との共同監修、フィルムアート社、2009)、『アール・ブリュット アート 日本』(監修、平凡社、2013)など。
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- アイドル
- 和田彩花
1994年8月1日生まれ。群馬県出身。
2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。特技は美術について話すこと。特に好きな画家は、エドゥアール・マネ。好きな作品は《菫の花束をつけたベルト・モリゾ》。特に好きな(得意な)美術の分野は、西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。
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