
DIALOGUE
- 2020.07.22
前田エマ × 玉井健太郎(アシードンクラウド デザイナー)
- 対談:前田エマ、玉井健太郎
- テキスト:市川靖子(編集部)
- 撮影:長田果純、忽那光一郎、編集部
現在東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「ドレス・コード?ー着る人たちのゲーム」展。京都服飾文化研究財団(KCI)が収蔵する衣装コレクションを中心に、ファッションとアートのほか、映画やマンガなどに描かれた衣装も視野に入れながら、300点を超える作品で構成し、現代社会における新たな〈ドレス・コード〉、私たちの装いの実践(ゲーム)を、13のキーワードで見つめ直す展覧会です。
本来であれば4月から開催される予定でしたがコロナの影響で開幕が延期となり、7月4日にようやくオープンしました。京都、熊本と巡回し、待ちに待った東京での開催。この展覧会で作品が紹介されているアシードンクラウドのデザイナー・玉井健太郎さんと、SPINNER編集長前田エマの対談が、なんと実際の展覧会場で実現しました。玉井さん直々の解説もあり、贅沢な1時間半に及ぶ対談になりました。コロナの自粛中に服に対しての意識に変化があった人も多いのではないでしょうか。そんなみなさんにぜひこの対談を読んで、展覧会に足を運んで欲しいと思っています。

エマ:トレンチコートが軍服から生まれたということをこの展覧会で初めて知りました。
玉井:軍服は今のストリートファッションのベースですよね。

エマ:コード06のコーナーはインパクトがありますね。
玉井:モンドリアンドレスだ!本物ですよね?

S:この右側のキャンベルスープのドレスは当時は使い捨てのドレスでしたが、今となっては古くてとても高価だそうです。
玉井:(小声で)これ、触ってみたいですね。昔の不織布ですよね。触ってみたいなあ。どんなタッチなんだろう。すごくさわってみたい!気になる!今の不織布とは全然違うタッチだと思うんですよね。

S:この中央のドレスのイラストは漫画家の高橋真琴さんに書き下ろしていただいたそうです。左は雪村の水墨画が元になっていて、右はアルチンボルド。
エマ:アートの価値ってなんなんだろう、って思ってきますよね。
玉井:ファッションって、アート界では最下層だと思うんですよ。だからファッションがアートに助けてもらってる部分があるかもしれませんね。
エマ:私はあまりハイブランドを欲しいと思ったことがないんですが、こういう服を着たい!と思う人はどういう感覚なんだろう?
玉井:エマさんはどういう基準で服を選ぶんですか?
エマ:まずは自分がときめくかどうか。その次に値段と自分の気持ちが合っているかどうか。私は作り手に比較的会える立場にいる機会が多く直接お話を聞けるので、そういうストーリーも基準のひとつです。あとは同年代のデザイナー達がこれから先の未来でどうなっていくのか楽しみなので、応援する気持ちも込めて服を購入することもあります。でも本当に自分が気に入らないと服は買わない。同情やお情けでは買いません。
玉井:アート作品を買うのと一緒ですね。
エマ:そうですね、本当にそうなんです。玉井さんはどういう服がお好きでしたか?
玉井:大学院生の時はひたすらアンティークマーケットに通ってボロボロの服をよく買っていましたね。
エマ:自分で価値を見つけていくようなことをされていたんですね。
玉井:出自の分からない古着とかが好きなんです。経年変化した生地とか空気感とかがめちゃくちゃ好きで、でもそれだけではなくて今の生活では見られないディテールがとても楽しいんですよね。
エマ:服を物としてみているのかな。
玉井:そうですね。僕は服をプロダクト的な考えでみていることが多いと思います。一つの体に対してのガジェットのように捉えているのかも。だから装飾的なデザインがそこに意味を成さないのであれば僕はやらなくていいのかな、と思っています。それはもっと感覚的にデザインする人の仕事なのかなと。僕は最終的にはロジカルにデザインをしているんだと思います。使う生地、ディテール、色…。自分の中にしっかりした意味を見出さないとどんなに美しいものでも使うことはないですね。
エマ:私も「ものとしての服」という捉え方のほうが興味があります。おしゃれだから好き、ではなくて、私は「服というもの」が好き。
玉井:共感します。

玉井:あ、僕このセクション好きです。シャネルスーツとシャネルスーツ風のコーナーですよね。この黒いシャネルスーツは女性が動きやすいデザインになっていますね。
エマ:そうか!スーツって女性が動きやすくなるための服でもあるんですね。
玉井:女性の社会進出を象徴しているんじゃないでしょうか。
エマ:昔の映画に出てくるシャネルスーツをみていると何て動きにくそうなんだろう…と思っていましたが。(笑)
織物をつくっている友だちからシャネルのツイードってすごいんだよ、と教えてもらったことがあります。確かに動きやすい、かっこいいだけじゃなくてエレガントさも感じられますよね。それが女性へのリスペクトにつながるのかな。

玉井:今、ファッションの専門学校の講師をしているのですが、女の子の学生がデザインしている時にイメージする女性像って、いつも強い女性、戦う女性なんですよね。今の時代、彼女たちは何に対して強いと思っているのかな。そういった強さの最初のイメージは、実はシャネルスーツなんじゃないかなと僕は思うんです。学生に「戦う女性、強い女性って、何で強いの?何と戦っているの?」って聞くと「わからないです」っていう答えが返ってくる。
エマ:私は最近、韓国のドラマをよく観るのですが、ドラマに出てくる女性のスーツ姿がすごくカッコよくて、オシャレなんです。最近の日本の女性はあまりスーツを着ているのを見かけない気がするんです。
玉井:あ、それはそうかもしれないですね。僕もスーツは大好きなんですけど、ユニセックスだと日本ではなかなか反応がないんです。中国のファッションウィークで展開すると同じジャケットがすごく反応があったりしますね。
エマ:日本の仕事をしている人のファッションって、OLさんだとヒラヒラしたスカートとふわっとしたブラウスでといったイメージが私のなかにはあるのですが、韓国だとスーツをきちんと着ていて、かっこいいですよね。文化というか、女性が求める仕事像や、立場が違うんですよね、きっと。

玉井:この作品、30分から数時間の間に撮ってるんですよね。
S:今回の展覧会を象徴する作品でもあると思うんです。いくらみんなオシャレして個性的な服を着てきたつもりでも、結局誰かと被ってしまう。じゃあ一体オシャレって何?服って何?って考えてしまいますよね。
玉井:今話していたジャケットのこととつながりますね。この作品はすごく面白いですよね。
玉井・エマ:楽しいですよね。
S:あと、今本人はオランダでマスク姿の人々を隠し撮りしているようですよ。(笑)

エマ:反抗ってやっぱり何かを生み出しますね。学生時代に学校や社会にうまくハマれなかった人の方がクリエイターに多いのは気のせいでしょうか。
玉井:社会に対してのフラストレーションって、ものづくりの原点でもありますよね。今ってコロナ禍ではあるものの、ふつふつと次のものづくりの意識がいい感じで高まっているんじゃないかな。
S:コロナ禍での自粛の時は何をしていたんですか。
玉井:ずっと家にいましたけど、フラストレーションは溜まらなかったですね。法人にする前も家で作業して慣れた環境だったのであまりフラストレーションはたまらず、逆に残念です。(笑)
エマ:私もストレスは溜まらなかったですね。もともと家に居るのが好きだし、外に出て働かなくていい仕事をしているので、幸運だったとしか言えないんですが。周囲にウイルスをうつしちゃいけない!とか、みんな頑張ってるから私も頑張る!っていう気持が強い人の方が大変だったのかも。優しい人の方がストレスフルになりやすいのかもしれませんね。
このコーナー、タータンチェックの衣装が漫画の『NANA』を思い出させてくれます。すごく好きなマンガでした。この漫画を読んでヴィヴィアンに憧れたな。
玉井:ヴィヴィアンって、何度か蘇りますよね。

S:これは裁縫されているのではなく、結んで出来上がっています。
玉井:へえ!着てみたいです!触りたい!(笑)
S:着せ付けも一体一体、専門の方が丁寧に着せたんですよ。

玉井:以前パジャマのデザインをしたことがありました。部屋着は面白くて、洋服のデザインと違うのはもっと自分寄りで完全に道具になるんです。洋服は誰にどう見られるかとか社会的な立場を表現すると思うんですが、パジャマに対して何を求めるかというと形よりも肌触りが重要になりますし、どこかに特化しているとそれが評価されるようなところがあるんです。
エマ:私は寝るとき、足が全部シーツについていると心地がいいんですよ。ワンピースを着て寝た方がいいのかもしれない。でも寝相が悪いのでワンピースだと人と一緒だと寝られないかも。
玉井:それこそ裸が一番いいんじゃないですか?(笑)
エマ:いつ地震が来るかわからないのでズボンを履いて寝ているんですが、いつの間にか脱いでいるんですよ。
玉井:その状況では僕は何もデザインは思いつかないです。
全員 (笑)
エマ:この展示空間では「人間は人から見られることがなくても、オシャレする人はちゃんとオシャレしているのか」っていう問題提起をしていますよね。私は一年に一度、地方のレストランなどで住み込みで働くのですが、その間はオシャレに関しては無頓着で、毎日Tシャツとデニムで、同じ服を毎日着ているような感じなんです。でもそれでも全然良くて、そういう時にオシャレって何なんだろうって考えるんです。でも人間ってどこかで美しいものに救われるし、食事だってちょっと綺麗に盛り付けてあったほうが食欲が湧きますよね。ということは、どんな状況でもオシャレはしておいた方がいいのかな、と、コロナ中にそんなことを考えました。
玉井:その先はどうなるんでしょうね。この人たちの話を聞いたら答えが出てきそうですね。

玉井:都築さんはすごいですよね。写真を撮る、というよりこういう人たちに出会えているのがすごい。京都展の時に初めてお話したんですがやはりものの捉え方がすごく面白かったです。
エマ:ファッションって何かになりたい!変身したい!自分じゃないものになりたい!と思わせる部分もありますよね。

S:AからZまでの架空のキャラクターを作っています。Aの人は朝起きた時こんな格好しているだろうな、というのがチャプター1、Aの人が枕元に置いているのはこんな物だろうな、というのがチャプター2、Aの人が普段着ている服はこんな服、というのがチャプター3。
玉井:架空のキャラクター。僕のデザインの仕方と同じですね。
エマ:大学の時に劇団「マームとジプシー」の主宰である藤田さんの授業を半年受けたことがあります。ゴダールの映画を観て脚本を書くという授業でした。映画を観て、例えば「女性がここで出て、男性が振り向く」みたいに脚本を書くんです。みんな同じ映画を観ているはずなのに文章で書くとそれぞれニュアンスが少しずつ異なるんですよ。それで次にその文章だけを見て実際に演じてみようと。元ネタは一緒なのに、全員が全然違う芝居になってしまうんです。ものを表現する、見る、目の前にあることを描くということはどういうことなのか、ということを学べてすごく面白かったです。
玉井:それはワークショップとしてとても面白いですね。
エマ:「人は見た目ではない」と言いますが、服はその人をかなり表しますよね。偽りで服を着ている人もいるかもしれない。だとしてもその偽りさえもその人を表すのかもしれないですね。私は服を着る時に「今日は何を着ようかな、今日はどう過ごそうかな」と思うけど、世の中には何も考えずに服を選んでいる人もいる。私はその人たちの脳みその中を知りたくてしょうがないんです。「朝起きてどうしてその服を手に取ったの?」「服屋さんに行って何でその服を買ったの?」「この人、その服に対して何も考えてないんだろうけどどうしてそれを着ているの?」と聞いてみたい。本当に何も考えずに服を選ぶことは可能なんでしょうか。すごく気になります。多分その人たちも私と同じように、お金を服に消費しているんです。そこに興味がすごくあります。
服を着るということは自分を表現することだと思っていたけれど、その服に合った自分を演じている部分もあるのかもしれないですね。

玉井:シャネルを例にとってみると、シャネルの似合う自分になりたくてシャネルの服を着る、という感覚はありますよね。僕たちの理想としては「自分が描く理想の人物になりたいからこのブランドの服を着たいんだ」と思ってくれると嬉しいです。服が、その人のモチベーションを上げることができるツールになるので。
エマ:だからますます不思議になるんです。デザイン的に面白い服を作りたいというデザイナーもいれば、その人の生活自体を変えたいと思うデザイナーもいる。ファッションをアートにしたいというデザイナーもいるでしょう。ファッションはアートに興味がない人にも浸透していく瞬間がありますね。人間にとって切り離せないファッションは、いろんな領域を超えることができるんですよね。

玉井:僕は即興でものを作り出せる人に嫉妬心があります。ファッションデザインは、考えて作っても最終的に着ることができるのが半年後なんですよ。
音楽だとフェスに行くと若い人たちが一生懸命モッシュしてるじゃないですか。それを見ていると即効性があってずるいな、自分はこれできないって思いますよね。浸透性が早いですよね音楽は。
エマ:ミュージシャンには憧れますよね。生まれ変わったらウタウタイになりたい。
玉井:画家の人たちも今の自分の感情をそのまま表現してそれを見た人に対して何か与えようってことができるけど、僕らデザイナーはちょっと時間がかかってしまうので美術家や音楽家のような人たちに対してはすごく憧れがあります。いい意味で嫉妬してます。
エマ:ものを作るってそれが完成するまでの時間がその人を表しますよね。油絵も何日もかけて完成させる人もいるし、サッサと一瞬で描く人もいる。写真は、撮るのは一瞬ですけど、スナップ写真のようにサッサと撮る人もいれば、緻密にセットを組む人もいます。私は、ファッションデザイナーのみなさんの、毎回シーズンごとにスケジュールを組んで取り組むスタイルに、憧れていますよ。どういう時間、物語が作品が完成する前に流れていたのか、そこが重要な気がします。
玉井:デザイナーも嫉妬されてるのかな。それはそれで嬉しいです。
エマ:隣の芝生は青いんですよ。(笑)
PROFILE

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- アシードンクラウド デザイナー
- 玉井健太郎
セントラルマーティンズ美術学校 メンズウェア学科卒業。
ロンドンにてマーガレット・ハウエル UKのアシスタントデザイナーを経て帰国
2007年4月 株式会社リトゥンアフターワーズを設立
2008年9月 東京コレクション初参加
2009年4月 リトゥンアフターワーズでの活動を中止し、独自のデザイン活動をスタート- ASEEDONCLÖUD (アシードンクラウド)
- ブランド名は子供のときに初めて創作した絵本の名前 「くもにのったたね」から。 19世紀後期~20世紀初頭の写真に見られるような古い作業着の美しさを生かしながら、その美しさの裏にあるアイデンティティーに、ウイットとユーモアを織り交ぜてデザインしている。 素材は天然素材をベースに、時には時代観のあるものを、また時にはアンティークから再現したものを使用。 コンセプトとして、毎シーズン様々な職業のライフスタイルからインスピレーションを得て、その生活の匂いをスパイスとしてデザインに込めている。
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