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DIALOGUE

2021.03.04

SPINNER × 向田邦子没後40年特別イベント「いま、風が吹いている」特別対談 第3回 廣川玉枝×前田エマ

  • 対談:廣川玉枝(クリエイティブディレクター/デザイナー)・前田エマ
  • 編集:SPINNER編集部
  • 撮影:長田果純

旺盛な好奇心で風のように軽やかに生きた、向田邦子。台湾の飛行機事故での突然の死から40年となる2021年1月、スパイラルで特別イベント「いま、風が吹いている」を開催。本展にあわせ、SPINNERの編集長・前田エマをホストに、現代を軽やかに生き抜く女性クリエイターたちと、仕事、暮らし、ファッション、旅など、向田邦子が関心を寄せた様々な事象について展覧会の会場で語り合いました。当日の対談をレポートします。

前田:私は旅に行った時に、自分は日本人であるということを強く感じます。でも、それと同時にどこの国の人も、同じ人間だということに気づきます。今回の展覧会では、向田さんご自身が旅で撮ったスナップ写真もたくさん展示されています。
廣川さんもファッションショーなどでいろいろな場所に行かれると思うのですが、異国の地に立つことが創作にもたらす効果はありますか?

廣川:私も向田さんと同じで、旅がすごく好きなんです。時間をこじ開けてでも、すぐにどこかへ行きたくなります。
異国の文化に触れると、日本人の概念として捉えていたことが全く通用しない面白さがありますよね。言葉も食べ物も器も違って、衣食住も全部違う環境があるんだから、デザインに絶対値はないんだと気づきます。その土地土地の心地よさを目指して皆ものづくりをしているんだと、旅をするだけで発見があるんですね。向田さんも、アマゾンだったり、こんなところにも行ったんだという写真が残っていますね。

前田:ライオンの写真をこんなに近くで撮っていたり(笑)。

廣川:すごくいい写真が残っていますよね。私も欧米をはじめ、カンボジア、ベトナム、インド、スリランカなどに行って、いろいろな国の文化に触れました。旅先でその土地のものを食べると、美味しいものも、口に合わないものもある。建物や生活様式も様々で、その国特有の文化に触れると今まで当たり前だと思っていた自分の中の固定概念が破壊されるんですよね。発見と驚きを得に行っている感じがあります。

前田:そうですよね。早く旅に行きたいですよね。

廣川:エマさんも旅は好きですか?

前田:私も大好きです。暇ができたら、突然マネージャーに「明後日から行ってもいいですか?」って電話したり(笑)。海外も行きますけど、日本の地方に長期滞在しながらアルバイトをするのが好きなんです。自分と異なる職業を一定期間体験することで、自分の仕事に戻った時に違う視点で取り組めたり、発見があります。

廣川:自分の職業じゃないアルバイトって、どこで何をされるんですか?

前田:カフェでの調理や美術館などのスタッフですね。地方のアルバイト以外にも、実は今までいろいろなアルバイトをしているんです。工事現場、住宅展示場、絵の先生、飲食業……。

廣川:面白い!エマさんがいたらびっくりしますね!

前田:いろいろなことを体験してきました。これからもやっていきたいですね。

廣川:ちなみに何のアルバイトが一番面白かったんですか?

前田:飲食店は、面白いですね。この世界には本当にいろいろな人がいると気づけます。そして食事という行為には、人のパーソナルな部分がすごく現れるんです。
廣川さんは演劇やダンスなど舞台関係のお仕事もされていますが、不特定多数の方に向けてではなく、特定の相手やシチュエーションに向けてつくる際はどのようなことを大切にされていますか?

廣川:ブランドなど自分発信の服は、自分の中でアイデアを考えて形にするのですが、舞台衣装の仕事は、自分のアイデアだけでは完結しません。どういうものが着たいとか、どういう風になりたいとか、どういうものが欲しいという具体的なリクエストがあるので、それを自分の中で噛み砕いて形にしていく作業です。
特に舞台衣装は環境設定が特殊ですよね。例えばカンボジア王朝のような設定だとか、ファンタジーだとか。加えて、ダンサーや役者、演出家の方々にもアイデアがあるので、それらを自分の中でうまく汲み取って形にすることが必要です。普段の考え方とは違って、そこがまた面白いところでもあります。

前田:ところで、展覧会では向田さんが選ばれた器なども展示しています。特に、日本のものは今見ても新しいというか、普遍的な美しさがありますよね。廣川さんは和をテーマにしたお洋服をつくられていたり、最近香川県の企業ともお仕事をされていますが、日本にもともと存在する美しさを再発見して新たな創作をされていくというのは、ご自身にとってどのような体験ですか?

廣川:地方に行くと、時間の流れが違ったり、産地の素材があったり、いろいろなインスピレーションを得ることがあります。
先ほど世界服の話をしましたが、日本にフォーカスすると、日本ってすごく面白い国ですよね。着物の文化、食の文化、器の文化。昔からつながっている道筋の中に、文化が残っているんです。時代を超えて残っているということは、良いものに違いない。そうした良いものを現代に落とし込んで、形にしていくことに興味があるんです。長い時代の中で続いてきた文化や歴史という軸の中に、自分がつくったものが置かれたら、歴史とつながりが持てるんじゃないかと。それらを意識的に取り組むようにしています。

前田:新しい発見がありますよね。同じ文化に触れていても、自分の年齢や生活によって、日本の文化の捉え方がどんどん変わっていっていると思います。

廣川:例えば、着物は日常で着る機会が少ないですよね。昔はファッションすべてが着物だったのに、現代では着物を着る機会が減り、日常では洋服をメインに着るようになりました。
私も生まれた時から洋服を着ているので、着物には七五三など、特別な機会しか思い出がありません。現代のライフスタイルに合った洋服が普及したことによって着物産業が衰退し、文化が途絶えようとしていると気づきました。その時に、着物という伝統文化を未来に繋げていくためにはどうしたらよいのかを考えました。着物には興味があるけれど、動きづらいし、着付けやルールが難しいという理由で遠ざけられているのだと気づき、形を変えれば解決策につながるのではと思いました。それで、着物のデザインの特長を残しながら、形を着脱し易く、動きやすいデザインにし、素材は京都の老舗メーカーとテキスタイルを開発しました。こうした伝統の持つ素晴らしい部分に新しいアイデアを組み合わせることで、今につながるものができていく感覚があります。

前田:なるほど、面白いですね。
今回の展示では向田邦子賞の歴代受賞者が紹介されています。向田さんは後進にとっても大きな影響を与えていて、育成に貢献していると思います。
私が最初に廣川さんのお名前を見たのは、高校生の時に読んでいた「装苑」で、コンペの審査員を務めていらっしゃいました。これから未来を担っていく人々を応援する時に、廣川さんが大切にされていること、モットーにしていることはありますか?

廣川:「装苑賞」という服飾のコンペですね。今、審査員をさせていただいています。
私もこのコンペには学生時代に応募してたんです。その時は、コシノジュンコさん、三宅一生さん、山本耀司さんなど、名だたるデザイナーの方、プロの審査員の方がいらして。応募して通るとつくるチャンスをもらえるんですが、自分の作品に対していろいろ指摘される(笑)。「重いね」とか、「ここもうちょっとこうできなかった?」とか。プロのデザイナーの方に評価されるので、厳しいけれど凄く嬉しかったんですよね。チャンスを得たこと、自分らしい作品をつくれたこと、プロのデザイナーに会えて励みになった経験が今も役立っています。
コンペに応募してくる人たちは皆、意欲があるので、自分のつくりたい形やイメージを具現化していく方向に促すという、サポーターとして私は審査員をやっています。美しさに絶対値はないので、人がつくるものでダメなものってないんです。だから自由にやればいいと思うのですが、まだうまく自分の中のアイデアを形にできなかったり、悩みがあるので、そこを助けてあげるお医者さんのような感じです。その人の個性や良いところを引き延ばしてあげると、未来が明るくなりますよね。

前田:装苑賞のショーの空間はすごくキラキラしていますよね。緊張感があって、みんなが頑張っていて。

廣川:青春ですよね。
私は学生時代に応募して、何回も服をつくったのですが、結局何の賞も取れなかったんです。でもその悔しさを励みに、プロのデザイナーになったので、結果的には良かったと思っています。他の応募者とは、よきライバルとして切磋琢磨して、今でも友達なんです。そういう経験が学生時代で一番良かったなと。経験をバネに、何事にも挑戦する姿勢であってほしいと思っています。

前田:私は美大に通っていたので、一生懸命活動しているアーティストの友達が多いんです。
ものづくりをしている方々にとって、同世代の仲間ってどういうものでしょうか?大人になるにつれて、関係性が変わっていきますか? 

廣川:私は文化服装学院の友達と今もすごく仲が良くて、毎年クリスマスパーティーをしています。今年はzoomパーティーでしたけど。学生時代よりも、今の方が仲が良いかもしれません。志が一緒なんですよね。
文化服装学院は、ファッションデザイナーになろうと決めてから入った学校で、そういう志を持った人たちが集まる場所でした。服が本当に好きな人たちばかりなので、そこでできた友達は何を話しても通じ合えるんです。ダメなことを、ダメって言い合える。時々話すぐらいの仲だけれど、お互いにやっていることを見守っていて。良い先生と良い友達に出会えたこと、人とのつながりが、学生時代の一番大きな財産ですね。

前田:磁石のように素敵な人と素敵な人はつながっていく気がするんです。悪い人が寄ってくる時は、私は今魅力的な人生を送れていないのかな?って思います(笑)。自分が目指すところに行けているかどうか、歩み寄ってくる人を見ることで自分の現在地を知るといいますか。
それでは、そろそろ最後の質問です。SPINNERというウェブマガジンでは、その方の「軸」となるものについて毎回伺っています。廣川さんにとって、「軸」とは何ですか?

廣川:「いつも前向きな気持ちでいる」ということを大事にしています。
何事にも、良い面と悪い面が絶対あるんです。悪いと思っていた面も、視点を変えれば個性になります。デザインは物事を前に進める仕事なので、それぞれの持ち味、良いところを見出そうという前向きな力が必要なんです。やったことがなくて、不安だと思うことももちろんありますが、とりあえずやってみようと、肩の力を抜いて取り組んでみる。物事の良いところを見出して、良いところを集めれば、さらにまた素晴らしいものができると。常に前向きな力を使って物事を考えたり、実行できたらいいなと思っています。

前田:「前向き」ってやっぱり重要なことですね。

廣川:コロナ禍の環境でも、重要ですよね。今回も、対談をインスタライブで配信する経験は初めてだけど、やってみれば面白いことも、良いことも絶対にある。お客さんを会場に呼べないことは残念だけど、インスタライブだからこそ地方にいる人も見られる。何事も良いところが必ずあるので、そこを見ていけば世界が明るくなるという気持ちでいつも取り組んでいます。

前田:本日は素敵なお話を、本当にありがとうございました。

PROFILE

  • SOMA DESIGN /​ ​クリエイティブディレクター /​ ​デザイナー
    廣川玉枝

    2006年「SOMA DESIGN」として活動開始。同時にデザインプロジェクト「SOMARTA」を立ち上げる。同年「身体における衣服の可能性」をコンセプトにボディウエアシリーズ”Skin”を発表。2007年S/Sより東京コレクション・ウィークに参加。第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。
    Canon[NEOREAL]展(2008 Milano)/ TOYOTA [iQ×SOMARTA MICROCOSMOS]展(2008 Tokyo)/ Mercedes-Benz [SOMARTA x smart fortwo “Thunderbird”] (2012 Tokyo)にてインスタレーション作品を発表。
    YAMAHA MOTOR DESIGNとのコラボレーションで電動アシスト車いす[ 02Gen-Taurs(タウルス) ](2014)を発表。京都の友禅染、西陣織老舗との協業により新時代の和装をコンセプトに[Kimono-Couture](2014)を発表。ASIAN COUTURE FEDERATIONのメンバーに正式加入(2014)。国内外初の単独個展「廣川玉枝展 身体の系譜 -Creation of SOMARTA-」(2014 Tokyo)を開催。SOMARTAのシグニチャーアイテム”Skin Series”がMoMAに収蔵され話題を呼ぶ(2017)。
    WIRED Audi INNOVATION AWARDを受賞(2018)。

  • 「SPINNER」編集長 /​ ​モデル
    前田エマ

    1992年神奈川県出身。東京造形大学在学中からモデル、エッセイ、写真、ペインティングなど幅広い分野での活動が注目を集める。現在は雑誌、WEB等でアート・服など様々なジャンルをテーマに連載を担当している他、ラジオパーソナリティも務める。

  • 空気の日記
  • エマらじお
  • 交換日記 凪
  • utakata
  • Spiral Schole
  • 妄想ヴォイスシアター
  • アトリエおよばれ
  • TEXTILE JAPAN FOR SPINNER
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