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連載:自由という名の映画館で

2020.06.25

コロナ禍、映画館:日田リベルテでのいろいろ


大分県日田市で独立映画館リベルテを運営する原茂樹さん。リベルテの磁力で集まる人々のお話しや、プロジェクトのお話など。

前回『Auvissを想う』で始まったこの連載。僕が営む映画館:日田リベルテもコロナの影響で例に漏れず休業せざるを得なくなった。なので”早速届いたビデオを観てみよう”と締めくくった前回のコラムだけど、今回はコロナ禍でのことを記そうと思う。今だからこそできる(できた)”未来に向けた”活動を少しでも記録し、誰かの今後の兆しのひとつになればと思う。

3/1。国内外で活躍する友人の絵本作家:谷口智則さんを日田に招き、300人規模のイベントを市民ホールで行う予定だった。そのイベントが”コロナ感染拡大でできなくなった”という電話が2日前に届き中止を余儀なくされた。それから、敬愛する(relax、Ku:nelなどの)編集者の岡本仁さん、発酵デザイナーの小倉ヒラクさん、元NEWS23キャスターの佐古忠彦さんなど、、、映画に関連したトークイベントも控え、さらにいくつものライブイベントも開催予定だったが、延期という形の事実上キャンセルになった。もちろん映画上映もできなくなった。毎年春休みに学童のみんなが貸切で楽しんでもらえる上映の機会も無くなったのがとても哀しい。でも仕方ない。受け入れて、果たしてこれからどうやって乗り越えていこうと考え始める。これまでそうやって何度も危機を乗り越えてきたから、知らず知らずの間に逞しくなったのかもしれないが、動じることなくこの危機的状況を受け入れ対処することができていた。そんな自分に少し驚いた。  

とはいえ、経営は壊滅的。いろいろ考えてみたものの、曲がりなりにも僕は映画に携わる身。心のこもったものでないとやれない。気持ちとは裏腹に時間が過ぎる。すると映画人たちの動きは早く『save the cinema』や『ミニシアターエイド基金』という支援団体が立ち上がっていた。すでにしっかりとしたコンセプトや支援方法・懸念までもを含めた文書が届き、賛同するか否かを求められた。感情だけでなく、しっかりと未来を見据えたその姿勢に、僕も大いに刺激を受けた。なのですべてのミニシアター支援活動に賛同し、同じ思いのみんなで共に動きはじめた。政府の支援も何もないと理解していたので、並行してリベルテ独自企画にも取り掛かり始めた。    

それから約1ヶ月、みなさんご存知の通り『ミニシアターエイド基金』はクラウドファンディング国内史上最高額(3億3000万円)を突破し、署名を集め政府に提出する『save the cinema』では、他国より圧倒的に少ない文化予算であることなどを日本政府に進言し、第一歩として実際に予算(約500億円)を設けてもらえるところまできたみたいだ(まだ進行中なのでぜひ署名していただけると嬉しいです)。友人たちの助言もあり、日田リベルテとしても前払制チケット『未来の自由券』を発行し、全国400名を超える方々が支援してくれた。支援グッズも友人の絵本作家:谷口智則さんとミロコマチコさんと想いを共有し、太陽・月・星がテーマの新しい命を生み落すことができた。結局みなさんのおかげで、まだこの映画館が存続できている。感謝しかない。閉館の危機というのは、すぐに訪れるということを思い知らされ、また平和だからこそ映画を観に映画館に行けるのだと再確認させられた。当たり前ではあるけれど。

ミロコマチコ×liberté『月のミロルテ』
ミロコマチコ×liberté『太陽のリベチコ』
谷口智則×liberté『サルくんとお星さま』

しかし、そんな風にコロナ禍でのいろいろがあったからこそ、

①”大切にしている人”との時間を今までより多く取れて、
②これまでの仕事や暮らしを省みることもでき(このやり方で良かったとも思え)、
③ミニシアターが無くなってはならない!という人が全国にこれだけいてくれる事実に大きなチカラをいただき、
④お互いに必要としている人とのやり取りこそ素敵なのだと思えた。

…から、振り返ってみると僕にとっては素敵な時間になっていた。もちろん、苦しい想いの方もたくさんいらっしゃるのも事実なので、個人的な想いに他なりません。が、これからも映画館に足を運んで切れるみなさんと、できる限りひとりひとり向き合いながら、映画の素晴らしさを伝えていければと思える大切な時間になった。

今は、映画館でのオンライントークイベントをスタンダードにできないかと試行錯誤している。第1回目は映画『風の電話』で、諏訪監督はじめ役者さんたちと、劇場に来られたお客様、そして入場制限で空いてしまう席を遠くからでも参加できるようにと企画してみた。全国初のコロナ以降満席になったイベントだと映画専門誌などで話題になるほどいい時間になり、他の劇場からも問い合わせが増えた。これも多くの皆さんの協力と想いがあったからこそ。なにをするにも感謝ばかりだなぁ。みんながやれるいい形を見つけたい。 一体これからどんなことが起きるのかなんて誰にもわからないけれど、それでも愛や絆、希望や兆しを表現する映画というものは、生きる上で大きなチカラになる。そう確信できた。なので、せめてこの仕事をしている間は信じ抜いて、今日もまだ客足の少ないこの映画館で試行錯誤している(みなさんもいつの日か日田に遊びに来てください!)。

『風の電話』オンライントークイベント

日田シネマテーク・リベルテ
2009年、2回目の閉館を余儀なくされた故郷の映画館:日田シネマテーク・リベルテを引き継ぎ現在に至る。35mmフィルム映写技師でもある。スクリーン数はひとつ。座席は63席。館内でライブやトークイベントも行なっている。ロビーだったスペースを、ショップやギャラリースペース、サロンに改装。ここで出会った方々と一緒に人生を共にしているが、全ての中心は映画である。

PROFILE

  • 日田シネマテーク・リベルテ 代表
    原茂樹

    大分県日田市出身。映画館「日田シネマテーク・リベルテ」代表。35mmフィルム映写技師。人口10万人以下の町に再び映画館が戻って欲しい。様々な活動依頼があり、今ではヤブクグリ(林業支援団体)広報係、コラム連載などの執筆業、TV『キン様の鍵』(大分朝日放送)にて映画コーナーレギュラー出演、大学講師やアートディレクション、フィールドワークなど活動も様々。故郷である日田市の映画館が1日でも長く楽しく存続できることを願っている。

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