大分県日田市で独立映画館リベルテを運営する原茂樹さん。リベルテの磁力で集まる人々のお話しや、プロジェクトのお話など。
“映画は、なぜ作られるのか”
思えば物心ついてずっとこのことを考えている。映画は誰かの人生だと思っているので、だとすれば人生同様、答えがあるというわけではない。でもやっぱり、誰かが傷ついたり、嫌な思いをするのを見たくない。その前に何とかしてあげたいという思いや、自分と同じように苦しんで欲しくない、誰かに喜んでもらいたいというような、様々な思いがあるから映画は作られるのだと思う。だからこそ、どんなに困難でも乗り越える人物が描かれ、その姿を見たぼくらの心は鼓舞され、明日への活力になるのではないか。と、そう思うのだ。ぼく自身がそんな風にして映画に救われた体験があるからそう思いたいのかもしれないが。いや、でもきっとそうなんだと思えるのだ。

ただ現実では、自分自身が傷ついたり、嫌な思い、苦しい思いを体験してはじめて知ることもあって、知らないからこそ自分で発見してゆく楽しみもあるのかも知れない。そういう意味ではあえて、何もしないというのも、一つの優しさになる場合もある。
“だとしたならなぜ、わざわざ映画なんか作るのか”
と、スタートラインに戻って来たような気持ちになるが、ちょっと違う。先述のようにぼくらには想像力があることに気付く。きっと動物たちにもあるこの想像力。生きるための教訓に近いこの行為は、明日を脅かされない為の最たる方法ではないだろうか。実際に映画館という現場で数万人以上の方々と会ってきた中で分かることは、現状に対し“変わりたいとまでは思っていない人”と、“どうしても変えたいと必死に生きている人”とで、映画の感想が違うことだ。大まかに言うと、前者は作品を評価してしまう傾向にあるが、後者は自分ごとのように捉えることができるので、良し悪しではなくとにかく心を揺さぶられている。要するに、たとえ同じものを観ても、心の奥に届くか届かないかは、鑑賞者自身の生き様が大きく関わってくるということが分かる。そりゃそうだ。やる気も人それぞれなのと同じように、愛の大きさや深さも人それぞれ。受信機の感度が鈍れば受信しにくくなりもする。なんと例えて良いのか、神社で手を叩く前方に鏡があるのと同じで、自分自身と向き合うこと、本当の自分の気持ちを知ることが映画を観ることなのではないか。だとすれば、その受信機を磨いたり感度を上げたり、そういった日々の作業が文化活動なのかもしれないし、自分を愛する(知る)為の第一歩な気もする。
でもそれでも、その上で多くの人が感動する作品が存在したりする。それを、名画と呼ぶのではないだろうか。現代は、こんなにモノや情報が溢れているが、だからこそ名画を観ようという人はいったいどれだけいるのだろう。そもそも、美術館や図書館と同じように行政の文化施設として映画が取り扱われず、文化というより娯楽と化してしまっているのは、政策にも一因があるのではないか。たまに、そう思いたい気持ちになるが、自分は政治家でもなければ、ただの映画館主。一市民だ。自分にできることを最大限にやっていくしかない。なので、「人生の糧である映画を観よう」を軸に、全てを考えている。ぼくにはそれしかできないのだが、逆を言うとそれだけはできる。であればそのできる範囲の中で最大限に表現していこう。今では、それがぼくの日課になった。
最近では、数十年前の名画のリバイバル上映も盛んになってきた。これもデジタルリマスターのおかげだが、フィルムでしか撮影・上映できなかった時代の作品が、もう劇場で観れない(と思っていた)過去の名作たちをスクリーンで観れることは、生きる為の大切なものを教えてくれるので非常に大きな価値がある。しかもこれだけ時が経っても今を生きるぼくが感動できるその普遍性に驚かされるのだ。どうせぼくが映画好きだからだろうと言われればそれまでだが、実際ぼく自身DVDを持っている作品をスクリーンで観てみると、全く違うモノに見えることに驚く。どっちがどうとか、雲泥の差とか比べる話ではなく、全くの別モノ。なので新作として楽しめる。この楽しみ方はとっても贅沢だなぁとしみじみ感じている2021年だ。

そんな体験を、今を生きるみなさんにも同じように感じて欲しいし、シェアしたいと思うから、この活動をしている。いや、この仕事をしていなくてもきっと周りのみんなに勧めていると思う。これ、すっごく好きなんだ、観てみてよって。
これを書いていると“自分はとってもおせっかいなんだなぁ”と思えて、ちょっと恥ずかしくなって、可笑しかった。

日田シネマテーク・リベルテ
2009年、2回目の閉館を余儀なくされた故郷の映画館:日田シネマテーク・リベルテを引き継ぎ現在に至る。35mmフィルム映写技師でもある。スクリーン数はひとつ。座席は63席。館内でライブやトークイベントも行なっている。ロビーだったスペースを、ショップやギャラリースペース、サロンに改装。ここで出会った方々と一緒に人生を共にしているが、全ての中心は映画である。
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