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連載:OrganWorks【For now note/フォーナウノート】

2020.10.08

渡辺はるか「CODE 001」


ダンスカンパニーOrganWorksが交代制で3人のダンサーの内側をそれぞれの興味から紐解いていきます。
踊る事で見えてくる事、感じているもの、聞こえる音。
それを紹介できればと思います。

1人は主宰、平原慎太郎。
彼の連載では日々生きてる時間の中で感じるものを内向し掘り下げた言葉を。
2人目はダンサー、渡辺はるか。
彼女の連載ではダンサーとして受けた言葉を身体で具現化する日々の作業から、更に自分の中に蓄積した言葉を。
3人目は佐藤琢哉。
彼の連載では、彼がこよなく愛するカレーライスを通じた身体の感覚、その土地土地への関わりを。
OrganWorks所属ダンサーの、三者三様の言葉を皆さんにお届けいたします。

ダンサーという職業の私。
というより、ダンサーである私。
の方が感覚が近いだろう。なぜなら勤務時間を終えても、制服のようには身体は脱ぐことが出来ないからだ。
何がダンスに還元できるのか、ということばかりを考えている。
その為、読書や調べ物でダンスのために言葉を扱うことはあっても、ダンスで蓄積されたものを言葉にすることは私にとって稀な作業かもしれない。

言葉をダンスに還元するのではなく、ダンスを言葉に還元する。

この記事を書くにあたり、自身のダンスノートを見返す。
クリエイションで振付家にもらうコレクション(ダメ出しのようなもの)や、作品の内容に関する知識など、整理される前の情報が詰め込まれたノートだ。
以下のように箇条書きで殴り書きしてある。

ポウ×2回 人形越し
最後8×1だけ足を止める
手が動くから動く 双眼鏡
下から上がる足
ゴロゴロ1歩じゃなくていい

これは7月初めに行われたオンライン配信のダンス公演のコレクションノート。

ほとんど暗号。

だけれど数ヶ月前の作品の事なら、大体どこの事を言っていたのか、
この暗号だけで思い出すことができる。

例えば、

手が動くから動く 双眼鏡

この暗号を解読すると、
手で双眼鏡の形を作り、その双眼鏡が回転する動きに合わせて胴体・足を動かしてダンスをするシーンにおいて、手が先に動いてから(つまり、手以外は止めておいて)胸、腹部、足という順に動かすという意味だ。

振付家に言われた言葉を踏まえて身体を動かすと、まず、動きの見た目が美しくなったり、不思議になったり、面白くなったりする。とても大事なことだ。
でも、それだけではなくて、動きに理由ができる。動作がたちまちダンスになる。
これが、私がダンスは面白いと思える理由の一つである。
速さを変えたり、角度を変えたり、大きさを変えたりするだけで、物語を生んでしまうことさえあるのだから、なんてロマンティックな行為だろうと思う。

「双眼鏡を覗く」という行為にこの「手から動く」というルールを加えると、「双眼鏡で見えた景色に翻弄されて、身体(私)が導かれている」というドラマに成る。
自分の身体が細かい暗号のようなルールで満たされていく。
それは、相反しているけれど、自分の身体が支配されるのではなく、むしろ自由になっていく感覚。
暗号解読には、法則を見つける作業が必要である。底辺×高さ÷2に当てはめるまで。レ点がきたら戻ると理解するまで。むしろそれがわかれば(覚えられれば)、そこからは楽しい作業ではないだろうか。

「手で作った輪っか」が「双眼鏡」に昇格する為にもいくつものルールが必要で、
見ている人に「手」が「双眼鏡」だと魔法をかけるのは、ダンサーの役割で、責任でもある。
その責任を果たすべく、また、そのいくつもの暗号を解読するべく、ダンサーは身体を愛でて、叱ってひと時も離れないように生活する。

その為に。振付家の生み出した世界に住める為に。

振付家がくれる暗号は、時に難解なものもある。
解説をつけてくれないことも多い。なんと、答え合わせをしてくれないことだってある。
中学受験の時、国語の物語文のテストで、先生と答え合わせをしていた時、
私の回答は、答えのページに載っていた回答とは違っていたけれど、「正解」をくれたことがあった。
確かに、渡辺さんの答えでも正解ですね。と。
算数ではこれは起こり得ないかもしれないけれど、国語ではあり得た。

ダンスではどうだろうか。

私は今、暗号解読のための手がかりを集めることに夢中である。
先週与えられた暗号の解読方法が、今週の暗号でも通用した時、また世界が広がった気分になる。

まだ「CODE001」を解いたばかりかもしれない。

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