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連載:僕らはみんな、生きている!

2020.10.30


〜未来への光を灯す、もの創りをする人たちの暮らしの光をちょこっと見せてもらいます〜
今僕たちは、経験したことのないような不安や葛藤と暮らしている。
それでもどうしようもなく生きていたいと思う。そう思える気持ちはどこから生まれてくるのだろう。その心を支える光となるものはいったい何だろう。

わたしは、おんぼろノートで⽣きている!

いつもノートを持ち歩く。
仕事のメモだったり、⼼に残った⾔葉だったりを書き込んでいる。
たまに、その時思ったことも書いたりする。

気まぐれの⽇記みたいな。

「カット割は〜を考えてみよう」
「会社で今度こうしてみよう」
「さいきん原付での帰り道に感じる⾦⽊犀の⾹りが⼼地いいな」
映画のこと、会社のこと、⽣活のこと。

そこには私のちょっとした過去が詰まっている。
なにげなく過ぎ去っていく毎⽇のメモ。

誰にも⾒せないから、なんでも書けるのがいい。
ときどきある誰にも⾔えないことも書き込んだりする。

でも
そんな思いは書いたって何かが変わるわけじゃないってこともどこかで気づいている。

真っ⽩なページを前に、何も書けないときもある。

この⽂章を書く少し前に
突然の、受け⼊れ難いお別れがあった。

頭の中が混乱していて
この企画のペンが⽌まってしまっていた。

私は〇〇で⽣きている!
そこに何が⼊るのか、意外とむずかしい。

私の“⽣きる”を⽀える光はなんなのだろう。
考えても分からなかった。

おんぼろノート。
辿り着いたのはこれだったけど、どうだろう。
しっくりくるものは⾒つからないかもしれない。

いつもリュックに⼊れている
私にとってお守りのようなものだけど
そこには明⽇からのことはなにも書かれていない。

過去は
役に⽴つときもあるけど
そうじゃないときだってある。

⽇付だけが書かれている真っ⽩のそのページが
あまりにも突然のその現実を受け⽌めてくれる、なんて思えなかった。

⽬の前にあるのは、ただのノート。

そうか。
ノートは⾃分と向き合うために書いているのかもしれない。
真っ⽩のページは次へとめくられ、これからも続いていく毎⽇のメモが書き込まれていく。

そして、ふとノートを振り返り、ページを開いたとき
何も書かれていないその空⽩に
あの⽇の⾔葉にできない悲しみを思い出すかもしれない。

向き合わなきゃいけないいろんな現実が⽇々あって
⾔葉になる⽇も、ならない⽇もページはめくられていく。

その過程は
ふとしたときに⾃分に向き合う時間をもたらしてくれる、きっと。

そしていつか使い古したおんぼろノートを⼿放せる⽇が来るように。

PROFILE

  • 映画監督
    山浦未陽

    映画監督。
    1996年東京生まれ、慶應義塾大学環境情報学部卒業。
    監督・脚本・編集を務めた、学生時代の初監督作品『もぐら』(2019)が第13回田辺・弁慶映画祭にて「映画.com賞」受賞。デリヘルで働く女性と、 デリヘルドライバーの男性が互いに抱える孤独を独自の視点で描いた。
    2020年11月25日〜28日にテアトル新宿にて、初監督作品『もぐら』と新作短編『空はどこにある』の2本立て上映が行われる。

  • 空気の日記
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  • TEXTILE JAPAN FOR SPINNER
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