#4 めぐる木
企画制作:小島聖、平松麻
動画撮影/編集:西塁
「色」のこと
小島:私が初めて麻ちゃんの絵に出会ったのは2017年の「景の気配」という展覧会にふらりと出かけた時でした。まだ麻ちゃん自身を知らずに、作品から麻ちゃんを知りました。不思議とすっと内側に入ってくる絵でした。それは描かれていた景色なのか、麻ちゃんの絵の発する色なのか。私の内側と馴染んだんです。
平松:聖さんが最初に、私自身ではなく絵と知り合ってくれたのはうれしいことでした。無言の色や気配と対峙する一時が絵のおもしろさだし、作家に会うと情報が増えちゃうこともありますしね。
小島:麻ちゃんの色合い、好きなんです。すこしくすんでいる、グレーっぽいというかベールがかかっているような。
麻ちゃんには世の中の色、どのように映っていますか?
平松:色は強烈なオリジナリティです。身体が元来持っている自然な特徴というか。だから、無理した色を混ぜると一気に絵が荒れてしまいます。ファッションとか生活の色も同じですよね。違和感を側にして生活をすると、モゾモゾして結局長続きしないような。
私の絵はグレーが軸みたいです。理由は考えていませんが、ただなんとなくしっくりくるグレーが底流していれば、絵がうれしく進むという感じ。
「色は光」だと思います。実際にそうだし、自分が思う色って錯覚にすぎない。色にとらわれず、光として日々を見てみると、一本の木にも無限の緑色が見えてきて、そういうときはもうとにかく目が悦びます。

小島:同じ緑でもよく見るといろんな色が飛び込んでくる。以前アラスカの荒野を旅した時に、短い夏を楽しもうと植物がありえないほどの色彩を放っていてびっくりしました。私には毒々しいほどの蛍光色に見えました。夏が終わり、さらに短い秋はむせぶほどの紅葉でした。「わたしここにいる!」っていう植物の自己主張というか。
2020年に見た麻ちゃんの個展「待つ雲」では、グレーなんだけど色が増え、さらに艶やかになった印象を持ち帰りました。
目に映る色、心の色を表現するのに、世の中に存在している絵の具の色で足りますか?私はアラスカで見た植物のように表現しがたい色が世の中にはあると思うのです。
平松:むしろ誰でも買える絵の具で、目に映る色、心の色を描き表してみたいです。今はグレーが気持ちいいから、気の済むまでグレーを作りたいですけど、私、真っピンクの絵とかものすごく描きたいんですよ。ときに毒々しい強烈な色に眼をウットリさせたい……気の済むまでグレーに向き合えば、次は自然にやってくるはずですね。
小島:あと、色彩を爆発させたくなったりしませんか?自分から開放させるというか……
平松:私は色彩を身体に溜め込んではいなくて、むしろ抱えている「景色」の方を爆発させたいです。その景色を描きたいがために、「色」を探るみたいな。
小島:景色があって色、なるほど。色が身体の中に埋まっていると思うとワクワクするね。細胞が色で動き出すというか。

平松:聖さんには、毒っぽい赤や痣みたいな青紫、目が眩むような真っ黄色や晴天の真っ青のような、強い色が埋まっているように思うのです。それを表出する必要は、あるかないかわからないけれど、確実に魅力だなと思っています。
小島:たまに自分で無意識に表出させているかもしれない。多分、心身の循環のために。
今回作った紙芝居「めぐる木」は、木や葉の緑と土の中の茶という感じの色彩だったけれど、なぜか白の印象を持ちました。麻ちゃんにはどんな色の紙芝居に映りましたか?
平松:聖さんの読み方や見せ方で「白」が加わりました。芝居で色を添えるってなんて素敵なんだろう。撮影日も春日で陽射したっぷりだったし、なおさら白を含みました。
小島:「景色があって色」のように、絵があって物語が生まれる、物語があって絵が生まれる、それぞれ順番の違うアプローチで色彩は変わる?
平松:絵や物語の生まれる順番で色彩は変わらないです。やっぱり自分が落ち着く色彩がドンと真ん中にあるので、それが蝶番となって、どんな絵でも物語でも、作品を安定させてくれます。 アラスカの花々の「わたしここにいる!」という色も、紙芝居のなかで見たくなりました。その色はアラスカで見たままじゃなくてもきっとよくて、聖さんの内部を反映した色として現れれば、絵という表現が膨らむのだと思います。タイトルは「ここにいたのは短い夏色」とか……作りたいものがたくさんです。

PROFILE
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- 女優
- 小島聖
1976年生まれ、東京都出身。1989年、NHK大河ドラマ『春日局』で女優デビュー。その後、ドラマや映画、CMなど様々な分野で活躍。柔らかな雰囲気と存在感には定評があり、映像作品はもとより話題の演出家の舞台にも多数出演。また30代で出会った山の魅力に魅せられ、プライベートでは国内外の様々な山を登るなどアウトドアに関するライフスタイルでも注目され、2018年には自身初のエッセイとなる「野生のベリージャム(青幻舎)」を刊行。
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- 画家
- 平松麻
1982年生まれ、東京都出身。油彩画を主として展覧会での作品発表を軸に活動する。自身の体内に実在する景色を絵画にし、「雲」をモチーフに据えた心象風景を描く。2020年6月~2021年末まで、朝日新聞夕刊連載小説、柴田元幸新訳「ガリバー旅行記」の挿絵を担当中。森岡督行・書籍(『本と店主』誠文堂新光社/15年)、村上春樹・アンデルセン文学賞受賞の講演テキスト(『MONKEY vol.11』SWITCH PUBLISHING/17年)、穂村弘・書籍(『きっとあの人は眠っているんだよ 穂村弘の読書日記』河出書房新社/17年)、三品輝起・書籍(『雑貨の終わり』新潮社/20年)など挿画も手掛ける。マッチ箱に絵を描くシリーズ「Things Once Mine かつてここにいたもの」も発表中。
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