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連載:フィンランドの景色を通して

2020.08.03

第1回 ある日の薪サウナ


はじめまして、フィンランドのヘルシンキに在住しています、星 利昌(ほしとしあき)です。
12年前の2008年、日本からフィンランドに渡り、今までやってきて気付いたこと、感じてきたこと、発見したこと、これからやっていきたいことなどをここに綴っていきたいと思います。このSPINNERを通して、フィンランドで生きる人間が何をどのように普段感じているか知ってもらいたいです。質問もしてください。

フィンランドの薪サウナ

第一回目にお伝えしたいことは、フィンランドと日本の人が知っている文化的なサウナについて、日本人の僕がフィンランドで感じることです。電気サウナは自分たちの家にもあり、いつでも入ることができますが、ここでは本来の薪を使ったサウナと湖または海について、お話します。ゆっくりした時間の中で薪のサウナに入って、頭を整理しているうちに、サウナがどのようにフィンランド文化の中にあって、人々の役に立っているか、最近改めて気付きました。

ある日のサウナへ行った時のこと。

斧を振りかぶり、木を叩き割って、薪を作る。
サウナ用のストーブに薪を入れ、火をつける。
ぼうぼうと燃え上がる炎とともに、サウナ小屋の温度が上がっていく。

ストーブの上に置いてある石がとてつもなく熱くなったころ、僕たちは小屋に入っていく。
順番に座り、ストーブの近くに座った人が、熱された石に水をかける。
シャーっという音が響き渡る。
それから数秒後に蒸気が小屋中をまわり、身体中にまとわりつく。
とても心地がよい。

身体が芯まで温まった頃、外へ出て外気浴をしたり、近くの湖や海に静かに入る。
これが何とも気持ちが良い。

この温度差を身体で味わうことこそがサウナの醍醐味だと自分は感じます。
温まった身体を冷たい水で冷やすことによって、全身の神経が刺激される。
普段使わないような神経までも、温度差によって刺激を受ける。
指の先、頭のてっぺん、身体の隅々まで。

これを2、3回繰り返せば、神経がととのい、身体も心も頭もすっきりする。
疲れもかなり取れます。

そして、いろんな人とサウナを楽しむ中で、重要なことにもう一つ気付きました。
それはサウナの熱気の温度を一番弱い人に必ず合わすということです。
子供がいれば子供が心地よい温度に合わせるし、誰かがその時のサウナの温度で十分なようであれば、その温度を保つ。
もっと熱い方がいい人がいたとしても、一番弱い人に合わせるのがフィンランドのサウナ。
この約束事がどこのサウナでも当たり前に守られている。
熱い温度がいい人は、少し長く入っていたり、みんながサウナから出た後に、熱くすればいい。海や湖の水温は自然そのものの温度で、季節により違いを感じとることが出来るし、自然とふれあうことの意味を考えさせてくれます。

そしてこのことはフィンランド人の国民性をも映し出しているし、国家の政策にも表れている。
(弱いというのはその人にとっては普通で、言い方にかなり語弊がありますが、弱者という意味で使っているわけではないです。)

人々が厳しい環境で生活する中で、マナーを守りそれらを統一化して、誰も苦しむ必要のないこと、みんなが分かち合って心地良さを楽しむこと、自然とともに生きること。
こういった哲学的なところもフィンランドのサウナで感じとることができ、人々の生活に馴染んでいます。

サウナの中でのマナーを一つとっても素晴らしい国だなと感じています。

フィンランドの湖

PROFILE

  • 陶芸家・料理家
    星利昌

    1985年生まれ、兵庫県出身。ヘルシンキ在住。
    神戸で日本料理の修行後、2008年フィンランド・ヘルシンキに移り、HotelKämp、Chez Dominique、Atelje Finneといった現地のレストランで料理の経験を積む。2011年からRavintola Hoshitoを開業し独立。2016年からもともと興味のあった陶器制作を始める。2018年自身のお店を一旦閉める。現在作品は、ヘルシンキのSamujiやLokalで取り扱っており、Michelin一つ星のRestaurantOraでも使用されている。

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