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連載:フィンランドの景色を通して

2021.02.15

第7回 お米のはなし


はじめまして、フィンランドのヘルシンキに在住しています、星 利昌(ほしとしあき)です。
12年前の2008年、日本からフィンランドに渡り、今までやってきて気付いたこと、感じてきたこと、発見したこと、これからやっていきたいことなどをここに綴っていきたいと思います。このSPINNERを通して、フィンランドで生きる人間が何をどのように普段感じているか知ってもらいたいです。質問もしてください。

山形県産 はえぬき

昔から日本人が神へのお供え物として扱ってきたお米。
そのお米を調理すると御飯になります。朝ご飯、昼ご飯、晩ご飯と、食事の総称を “ごはん”と言っているのは日本だけではないでしょうか。
それくらい日本人にとって、お米は生活に根付いていて、欠かせないものです。
フィンランドに住んでいても、お米は生活の中心にありますし、とても尊いです。

お米を毎日炊いていて、気付いたおもしろいことが一つあるので、お話させて頂きたいと思います。
フィンランドでは、イタリアのジャポニカ米、アメリカのカリフォルニア米、東南アジアのお米、日本のお米といった複数の国のお米や、同じ国のお米の中でも違った種類のものを手に入れることができます。それらはそれぞれ違った強い特徴を持っています。特徴を把握した上で、お米同士を配合し混ぜ合わせて炊くことによって、それぞれが相乗効果を生み出し、個性と個性が引き立つような現象が起こることがあります。とても良い効果です。

日本米に山形県の“はえぬき”というお米があります。このお米にも、他とは違う個性があります。御飯だけでお茶碗一杯分を食べられるほど美味しく、味覚を楽しませてくれますし、味や香りがとても繊細でとても美しいのです。稲が生い茂った美しい風景までも想像させてくれます。

ところが、他のお米と混ぜて炊くと一切の特徴が消えてしまいます。丁寧に炊くことにより、ものすごく美味しくなるお米なのですが、他の特徴の強いお米と一緒に炊くと、はえぬきの持っている特徴は弱まり、良さが全く引き立たなくなってしまうのです。現在フィンランドで手に入るお米の中で格別に美味なのですが、他のお米と炊くとその個性の輝きは薄れ、負けてしまいます。
お米はそれぞれの特徴を把握した上で扱うということが、料理では大事です。

そしてこのような現象は人間社会でも少なからず起こっているように感じています。
仕事中に、いろんなお米を使い、配合させ試行錯誤を繰り返しているうちに、お米の世界が段々と見え、頭の中でそれが人間社会に投影されるといった現象が起こりました。

人間社会では個性と個性が犇めき合い、ぶつかり合い、弱い個性が消え、強い個性が残ります。そしてそのことは本質的なところではなく、ただ個性が強かっただけで、存在が残ったり目立ったりすることがあります。

個性の強い弱いだけではなく、本質的に良いものはどういったものなのかを見抜くということがいかに大事か、お米に教えてもらったような気がします。恐らく、僕はお米の中毒になっています。

人間社会では、個性や主張が強くなければ、本質的には良いものを持っている人でも、消えていってしまうということが起こっているように感じています。お米で考えればかなりもったいないことが起きています。純粋においしい御飯を食べるだけで救われるのに、違うお米と混ぜてしまったり、適切な扱い方を知らないせいで、純粋なお米の美味しさがどのようなものだったのかわからなくなってしまっています。

世界的なコロナの影響を受け、人と人との時間や、知識、価値の共有の在り方がめっきり変わってしまいましたが、それでも独りよがりにならず、いろんな価値を共有できるように模索していきたいです。本質的にいいものと触れ合うことこそが人生を豊かにしてくれると信じています。

今日も美味しい御飯を作り、家族と過ごしながら、作陶に励みたいと思います。

P.S.
フィンランドの伝統的な料理の中でもお米は使われていて、PUURO RIISI(プーロリーシ) 、KARJALAN PIIRAKKA(カルヤランピーラッカ) 、KAALI PATA(カーリパタ)など、お米はなじみ深い素材です。日本料理とは違うお米の使い方をしているので、このような伝統料理もまた紹介したいです。

PROFILE

  • 陶芸家・料理家
    星利昌

    1985年生まれ、兵庫県出身。ヘルシンキ在住。
    神戸で日本料理の修行後、2008年フィンランド・ヘルシンキに移り、HotelKämp、Chez Dominique、Atelje Finneといった現地のレストランで料理の経験を積む。2011年からRavintola Hoshitoを開業し独立。2016年からもともと興味のあった陶器制作を始める。2018年自身のお店を一旦閉める。現在作品は、ヘルシンキのSamujiやLokalで取り扱っており、Michelin一つ星のRestaurantOraでも使用されている。

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