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こんにちは、小林安祐美です。
私が洋服の写真を撮り始めたのは、高校生の時。
「人と服との関係性を探求したい」この思いをより強く確かなものにしたのは大学三年生の時、祖母の服との出会いでした。
この場をお借りして、探究の過程を綴らせていただきます。コロナ禍にある今、以前にも増して様々な物事に向き合う時間が与えられたように思います。受け継がれる服、消費される服、自分にとっての服への気持ちに少しでも思いを傾けるきっかけとなりましたら幸いです。

数ヶ月前のこと、お昼に祖母の特製のヒレカツを食べに行った日。
(パン粉が足りなくなってしまい、卵に浸したヒレ肉にはパン粉代わりに細かく刻んだ桜海老と白胡麻を付けたものと、薄切りにしたゴボウを付けて揚げたものも出てきました。香ばしさがすごいです。祖母のちょいレシピでした。)

お腹が満たされ、深いお煎茶で一息ついていると、
「あ、そうそう。」
とおもむろに祖母は席を立ってお洋服の部屋へ消えていき、またすぐにひょっこり一枚のジャケットを手に出てきました。

それは、目を細めてしまいそうな眩しさを放っているのに、纏っている色彩に吸い込まれてしまいそうな、一言では言い表せない彩りのものでした。
「整理してたら出てきたの、これからの時期にちょうどええにぃ。」と祖母はそれを私に手渡しました。

ちなみに祖母は、名古屋から東京へ来て10年以上になりここは自分に合っていると東京人になりきっているけれど、体に染みついている名古屋弁がちょこちょこ出てしまう。祖母の可愛いところ。

私は手に持っても尚その生地が気になってしまい「これは、どういう素材なの?」と尋ねました。

「ポリエステル100%だからカジュアルに、どこへでも着たらいいよ。いろんな色が入ってるの、遠くから見るとより栄えてきれいよお。」
眩しさの正体は何だろうとよく見ると、糸は迷いのない気持ちのいい曲線、それはペイズリー柄と言われているもので、ジャケットにまとわりつく様に織り奏でていました。
祖母は「ん~、勾玉模様に似てるかな」と。はっきり何とも言い切れない不思議な模様。

「これはね、串カツ屋さんやってた時、買い出しでしょっちゅうスーパー行かないといけないでしょ? その時にさっと羽織って出たの、荷物入れるコロコロひいて。遠くから見栄えるからみんながよく眺めよったよぉおばあちゃんのこと。」

そう言いながら嬉しそうに、羽織ってその姿を見せてくれ、ジャケットはふわり、するりと体を包んでその表情を照らしました。

ピュアで彩り豊かな色彩に重なる祖母の乙女心が少し、垣間見えた気がしました。

またこのジャケットのブランドは、創業1959年の大手アパレルメーカー「株式会社ワールド」のもの。
構造改革のため今年度中に、内5ブランドを廃止し店舗の15%を閉鎖することを7月下旬時点で発表していました。戦時から様々な変動を恐れずに続け進み、その順応力があるからこそ大きな存在であり続けられるのかと思ったり。
しかしその大きな企業でさえ経営改革を強いられる今の状況にやはり身を縮めてしまったりします。

様々な時を、忙しく働いていた祖母はどんなことがあっても日々美しくいることに抜かりはなく、と言うよりも、着飾ることは祖母にとってごく自然なことだったのかもしれない。

大好きな服を纏うことで、日々を強く生きられていたんだ。

大切に着るね、おばあちゃん。

ハマちゃんの大切なピースがまた一つ、こうして私に受け継がれました。

PROFILE

  • 小林安祐美

    1993年生まれ、東京都出身。写真家。
    2016年 日本大学芸術学部 写真学科卒業。大学在学中から、人と服との関係性を追求した作品を制作。品川キャノンギャラリーにて卒業制作
    「時を纏う」が選抜され展示を行う。
    2016 – 2019年までmina perhonenによるセレクトショップ「call」に勤務。販売・Instagramやイベント時の撮影を担当する。
    2019年秋に単身渡英 現在、新型コロナウイルスにより帰国。

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  • TEXTILE JAPAN FOR SPINNER
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