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こんにちは、小林安祐美です。
私が洋服の写真を撮り始めたのは、高校生の時。
「人と服との関係性を探求したい」この思いをより強く確かなものにしたのは大学三年生の時、祖母の服との出会いでした。
この場をお借りして、探究の過程を綴らせていただきます。コロナ禍にある今、以前にも増して様々な物事に向き合う時間が与えられたように思います。受け継がれる服、消費される服、自分にとっての服への気持ちに少しでも思いを傾けるきっかけとなりましたら幸いです。

ある日の夕方、パンをたくさん買ったから取りに来て~と電話があり、徒歩10分とかからない祖母の住むマンションへ向かいました。

商売をしていた祖母は、ひとり暮らしの今でも食材はたくさん買ってしまう癖が抜けず、食べきれない分をもらいに行くことはしょっちゅう。買い物の手間が省けるので、母からするとありがたいことなのよね。


パンを受け取りに来たと思ったら何の気なしに、「そうそうこの間言ってたやつこれこれ」とセットアップのお洋服も用意されていました。

この間言っていたというのは少し前に私が「プリーツスカートで可愛いのが売っててね、」と話をしたら祖母が「おばあちゃん持ってるよぉ綺麗なプリーツスカート!今度出しとくわ見てみぃ。」という一連の流れがありました。

パンを手にそれを見た私は、お手本になるような二度見をしていた事でしょう。

「わああすごい!」と声を発して目をぱっと見開きました。


まさに目の覚めるようなピンク色の花が印象的で、ベース生地の黒色を埋め尽くすように油絵で用いられそうな色味の緑の葉と、ピンクの他に青と紫の花が協調しつつ個々が主張しているように生地に広がっていました。
これを相乗効果と言うのか、、、!

「発色がすごい、、これいつ着てたのおばあちゃん。」「40代かなあ、どこかお呼ばれしたり同窓会とか、たまにしか着なかったから綺麗にとってあるでしょう? 近所では着られないからねえ、やっぱり目立ったいいものばかり着てるとさ、いろんな目で見られちゃうからねえ。」と。 

着飾る事=人目を引くような、美しいもので身を飾る。

自分が美しくて良いものを身につけた時に、それが憧れのお洋服だとさらに気分が上がることは事実。仁王立ちしたり、モデル歩きしたり、足組んだり、正座したり、ジャンプしたり、着る服で仕草は自然と変わり、体は動き、どんな人間にもなれる気がしてしまう。自分にとってそれは、それは魔法の存在を信じてしまうくらいに幸せだと感じる。

また、今はプチプラアイテムは当たり前にあって、容易に着飾る方法はたくさんあると思う。

しかし祖母の言葉を聞いて、その表情を見て、当時の祖母のジレンマを勝手に想像してしまいました。


祖母は続けて服の記憶を話してくれました、プリーツスカートをひらひらさせながら一緒に踊っているみたいにして。

「外国人サイズでおばあちゃんには丈が長くてねえ、フランスのファブリックだったかな、これも仕立て屋さんに直してもらったのよいつものね。きれいなプリーツもその通りに、上手よねぇこんなに、おばあちゃんも勉強になったわあ。夏には黒いTシャツを合わせて、冬は黒のタートルネックに黒のピシッとしたパンツを合わせるのよ。パキッとして、カッコええよお。」

「ほ~、素材は薄いけどシルクだから、そうか冬にも着れるねの。私もそうやって着ようかな~。」そうは言っても、祖母のように強く美しいから似合うんじゃないか、、と少し不安に。いや、纏うことで少しでも祖母に近づけるようにと、自分を奮い立たせよう。 

私がこの服を纏っている日にはぜひ一言、「いいじゃん」と嘘でも言って頂けたら、この上ない幸せです。
ほんと、私は単純なことで自信を持つことができる能天気な人だな、なんて。

自分の内から自信が持てるように、パワーをもらうね、おばあちゃん。

ハマちゃんの大切なピースがまた一つ、こうして私に受け継がれました。 

PROFILE

  • 小林安祐美

    1993年生まれ、東京都出身。写真家。
    2016年 日本大学芸術学部 写真学科卒業。大学在学中から、人と服との関係性を追求した作品を制作。品川キャノンギャラリーにて卒業制作
    「時を纏う」が選抜され展示を行う。
    2016 – 2019年までmina perhonenによるセレクトショップ「call」に勤務。販売・Instagramやイベント時の撮影を担当する。
    2019年秋に単身渡英 現在、新型コロナウイルスにより帰国。

  • 空気の日記
  • エマらじお
  • 交換日記 凪
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  • Spiral Schole
  • 妄想ヴォイスシアター
  • アトリエおよばれ
  • TEXTILE JAPAN FOR SPINNER
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