こんにちは、小林安祐美です。
私が洋服の写真を撮り始めたのは、高校生の時。
「人と服との関係性を探求したい」この思いをより強く確かなものにしたのは大学三年生の時、祖母の服との出会いでした。
この場をお借りして、探究の過程を綴らせていただきます。コロナ禍にある今、以前にも増して様々な物事に向き合う時間が与えられたように思います。受け継がれる服、消費される服、自分にとっての服への気持ちに少しでも思いを傾けるきっかけとなりましたら幸いです。

真っ白い、するっするのシャツ。
風になびく、水面の様な表情を見せて。
時々、風を纏っているのかと思うくらいに軽い。
ポリエステル100%の良さ、シワを気にせず多少の汚れも気にならない、雨に降られてもすぐ乾く。
左腕に佇む三体の兵隊さんは、パワーをくれる勲章の様に思ってる。
気づいたらふと何処かへふらっと行ってしまいそうな、程よい力の抜け具合なんだけれど、
いざと言うときには必ず助けに来てくれる三銃士みたい。
このシャツは今、私の洋服ラックには当たり前に、欠かせないものになっています。
祖母の家に着ていくといつも、「これ可愛いなあやっぱり」と兵隊さんの刺繍に触れて嬉しそうに祖母は言います。
2年ほど前、これを受け取った日のことが朧げになっていたから、改めてこのシャツと出会った時のことを聞いてみました。
「これはねえ、上の方に掛かってて取ってもらったの。その刺繍がぱっと目に入ってね。
本当は後ろ身頃が足までスーッと長いデザインだったの、だから上にかかってて。
でもおばあちゃんあんまり背大きくなくてよく動くからね、後ろ切ってもらっちゃったのよ。いつもの仕立て屋さんにお願いしてね。」
祖母の即決力と行動力には幾つになっても驚かされ、お手本にしているところ。
当時は珍しいデザインだったんじゃないかな?と尋ねると、
「イタリア物を輸入してた所だったかな。後ろ切っちゃったわ、おばあちゃん何でもすぐやっちゃうから。
それでもこの兵隊さんが可愛くてどうしても。こんなに綺麗に仕立てられるのはあの人だから。おばあちゃんも直し方みて、勉強になってたの。
これがね、最後だったかな、彼に直してもらったの。
歳で目も見えなくなってくるからね、お店閉めちゃうって聞いて。その前にって、これを持って行ったのよ。」
仕立て屋さんの手により美しく施された、最後の1着。
祖母のお姫様のような望みをいつも叶えてくれた人。その手を祖母はきっと覚えている。
ステッチを眺める祖母の目にはその手も映し出されている様な、眼差しはしばらくそれを捉えて、
「よかったわあ残しておいて。」
誰に言うでもなく祖母のその声は、ほんのりテーブルを透かした白い生地に滲み入る様に漂うことなく消えました。
ハマちゃんの大切なピースがまた一つ、こうして私に引き継がれました。
大切に着るね、おばあちゃん。
あと、たまに、兵隊さんに助けてもらうね。
PROFILE
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憧れ以上のプリーツスカート2020.11.27
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スーパーに行く時のジャケット2020.10.26
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