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こんにちは、小林安祐美です。
私が洋服の写真を撮り始めたのは、高校生の時。
「人と服との関係性を探求したい」この思いをより強く確かなものにしたのは大学三年生の時、祖母の服との出会いでした。
この場をお借りして、探究の過程を綴らせていただきます。コロナ禍にある今、以前にも増して様々な物事に向き合う時間が与えられたように思います。受け継がれる服、消費される服、自分にとっての服への気持ちに少しでも思いを傾けるきっかけとなりましたら幸いです。

飴か、ゼリーか、、?お菓子みたい。そう、思いません?

でもなんとなく凸凹している。よ~く見ると、豚革の特徴の3つずつの毛穴が。( ∴ ←こういうの)

祖母がこれを見せてくれたのは今年の夏。
私が小さなバッグ一つで祖母を訪ねた時に「このくらいのサイズいいわよねぇ、おばあちゃんも昔買い物の時にお財布と鍵とハンカチだけ入れてぷらぷら~っとしてたわ。オレンジとかグリーンとかの色ですっごく綺麗なの、あるにぃ見せたる。」とお洋服の部屋から、その日はバッグを出してくれました。

正直、豚革に着目したことがなかったのだけれど、日本では安定して国産豚原皮が輸出されているらしい、それは明治時代から。

主に食肉用の豚から取れる皮を再利用する方法として広まって、戦後の洋食ブームにより消費率が高くなり、生産量がさらに伸びたんですって。
薄くて軽くて摩擦に強いから、加工の仕方によって使用方法も幅広くなる。
このバッグはアメ豚と言って、古くは豚の皮に亜麻仁油を塗布した後に表面を石で磨き上げる製法で作られていたものだそうです。

日本では牛革がメジャーだと思っていたけれど、豚さんもすごい。

百貨店で見つけて、珍しいものが好きな祖母は思わず手に取り、手放せなくなったそう。
けれど、祖父にはこんなことを言われたみたい。
「こんなもんスッと抜かれるで!財布も何も全部スッと!僕が一緒にいりゃいいけどそんなもん危ないで!蓋閉じるのにせないかんよ。」と。

言い方は強いんだけれど、祖母のことが心配で仕方なかったんだなぁと思う言葉。 

「しょっちゅう言われてたもん、おじいちゃんに。今でも思い出す、すんごく思い出す。」
祖母は注意されてたこともすごく嬉しそうに、まるで褒められた思い出のようにニコニコして、バッグをぷらぷら~っとさせながら話してくれまし た。そうだ、いたずらっ子が無邪気に笑うような感じで。

私が中学生の時に亡くなった祖父は、幼かった私にはその喋り方が少し怖くて、でも、まん丸な輪郭で笑ったら目尻が垂れてお顔全部が丸くなる、笑顔が可愛いのは知ってた。祖母の笑った目尻のシワは年々重なりが増えて、それは祖父の分も重なってたりして。

祖父が今も隣の部屋で新聞を読んでいる気がする、そんなように弾む声で話していた祖母。

私の記憶には少ない、祖父母の空気感とか関係性とかを今でも、近くに感じることができるんだ。 ほんの僅かでも、すごく嬉しいよ。

大切に持つね、おばあちゃん。

ハマちゃんの大切なピースがまた一つ、こうして私に受け継がれました。

あと、実はね、
アメ豚のバッグで蓋が閉じるものを祖母は見つけたんです、蓋の開いたバッグを買ってほんの少ししてから。
それが下の写真のバッグ。

もちろんこっちも、大切に持つね、おばあちゃん。 

PROFILE

  • 小林安祐美

    1993年生まれ、東京都出身。写真家。
    2016年 日本大学芸術学部 写真学科卒業。大学在学中から、人と服との関係性を追求した作品を制作。品川キャノンギャラリーにて卒業制作
    「時を纏う」が選抜され展示を行う。
    2016 – 2019年までmina perhonenによるセレクトショップ「call」に勤務。販売・Instagramやイベント時の撮影を担当する。
    2019年秋に単身渡英 現在、新型コロナウイルスにより帰国。

  • 空気の日記
  • エマらじお
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  • 妄想ヴォイスシアター
  • アトリエおよばれ
  • TEXTILE JAPAN FOR SPINNER
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