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こんにちは、小林安祐美です。
私が洋服の写真を撮り始めたのは、高校生の時。
「人と服との関係性を探求したい」この思いをより強く確かなものにしたのは大学三年生の時、祖母の服との出会いでした。
この場をお借りして、探究の過程を綴らせていただきます。コロナ禍にある今、以前にも増して様々な物事に向き合う時間が与えられたように思います。受け継がれる服、消費される服、自分にとっての服への気持ちに少しでも思いを傾けるきっかけとなりましたら幸いです。

少し大きめな襟、ゆったり取られた袖と丈と、肩幅と。
中に着込んで覆える感じ。普段着にサッと羽織って、大股で歩いちゃっても平気。
ボレロの形の魅力に気づく。少し子供っぽい印象を持っていたシルエットも、サイズ感と素材、柄の彩でこんなにも魅力的な印象に。
この一着も、仕立て屋さんに作ってもらった祖母の大切なピース。

冬らしい軽やかな日差しとしゃんとした空気に、ちらちらと春の香りが鼻をかすめる頃、このボレロ風コートの出番。
見た目の割には軽くて薄手だからこの頃が程良いんです。
その名のように、ボレロを踊り出したくなるくらい幸せな気持ちになる、踊り方も知らないのに。自信いっぱいに体が弾んでしまう、幸せを纏わせるコート。

と言うか、何よりも、この柄ですよ。その色ですよ。
毎度思うことが、祖母の選ぶ生地や服はとにかく目の覚めるような発色のものが多いんです。そしてそれは私のどタイプなんです。

お出かけをした帰りに、コートを着ている姿を見てほしくて、体が弾む気持ちを伝えたくて、祖母の家に立ち寄りました。

「どこへ行っても、きれいなコートだねって言ってもらえるんだよ。おばあちゃんのものって伝えてるよ、おばあちゃんがデザインしたのに自分事みたいに自慢げになっちゃう。あと、この間見かけたよって言われる時は大体このコート着てる日だったりするよ。」

祖母は「そうかそうか。」と弾む声で相槌してくれる。

祖母の声音はいつも豊かでふと聞き入る。驚いた時は鋭く低い音になり、寂しい時はゆらゆら小さな音になり、嬉しい時はコロンと弾む高い音になる。私がコートを手渡すと、祖母はそのまま話し始めました。

「綺麗に作ってもらったん。デザインも全部、ラフ描いてそのまま形にしてもらって、本当に仕立てが上手だったからねえ。
あれ!タグがついとる、あぁこの頃から作りよったん自分の。高田さんやったんいつも。面白いな~。
(高田さんとは、いつも祖母がお願いしていた仕立て屋さんのこと。このコートを作るのを境に自分のネームタグを付け始めたようです。ローマ字でTAKADAとね。)
ドイツ製の生地だったかな。ボレロ風にしたの、普段着で楽に羽織って着れるように、だから他にもボレロ風にしたもの結構あったよ。
柄の出方とかも綺麗に出るようにね。綺麗でしょう本当に。」
その声音は徐々にゆらゆらと、けれど高い音をしていました。
コートをはらりと、そして首元を手繰り寄せタグを眺める祖母。このコートが繋ぐ時、人、空気、その全てを愛おしむ優しい声音です。

私は「そうなのね。うん、すごく好き。すごく着やすいし。ほんとに完璧な仕立てだね。ピンクとグリーンの発色もたまらないよ。可愛い。」と答えると、

「そうそう、柄もな、なんやろな、野菜かな。」
「えっ!お花でしょ!? ん?これはお花だよ!」
「そか?お花かあ?」

なんとびっくり、祖母はこの柄を何かの野菜のモチーフだと思っていたらしい。私はついお花だと言い張ってしまったけれど、、、
チューリップのようなお花よね? でも野菜だと言われれば、そう見えてこなくもない。
いや、ひとまず、私の中ではお花としておくねおばあちゃん。

色褪せている箇所が少し、日に焼けたところが少しある、よーく見るとね。
それでもベッチンにしては状態がすごくいい、一見シミなんてわからない。
何年前のものであろうと、つい先日買ったもののように、お洋服に限らず大体のものがきれいに保管されている祖母の持ち物。

物を長く大切に持つ心得がある祖母、そういう性格なのかわからないけれど。そこも私のお手本にしたいところ。

生きて行く中で、価値ある物に対しての経年の比重は、少しずつ変わるのかもしれない。
受け継がれる大切な物と向き合ううちに、気づくことがたくさん。ただその物だけではなくて、自分のルーツや誰かの思いが見えてくる。
それはすごく楽しい。
だからこれからも、大切に継いでいくねおばあちゃん。

こうしてハマちゃんの大切なピースがまた一つ、私に受け継がれました。

PROFILE

  • 小林安祐美

    1993年生まれ、東京都出身。写真家。
    2016年 日本大学芸術学部 写真学科卒業。大学在学中から、人と服との関係性を追求した作品を制作。品川キャノンギャラリーにて卒業制作
    「時を纏う」が選抜され展示を行う。
    2016 – 2019年までmina perhonenによるセレクトショップ「call」に勤務。販売・Instagramやイベント時の撮影を担当する。
    2019年秋に単身渡英 現在、新型コロナウイルスにより帰国。

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