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連載:ZIPPEDを振り返る

2021.03.30

言葉よりもっと手前の感じ/インタビュー ゼロコ Vol.9

  • 聞き手:秋山きらら(編集部/ZIPPEDフェスティバルディレクター)、テキスト:白井愛咲、秋山きらら

オンデマンド配信中の「無言に耳をすますパフォーマンスフェスティバル『ZIPPED』」。スパイラルが挑戦する、新たなパフォーミングアーツのかたちとして、マイム、演劇、ダンス、美術など多様なフィールドで活躍する気鋭のアーティストによる、「無言」を多角的に捉えた8作品をご紹介しています。
言語の違いや物理的な距離を越えて交流ができるいま、コミュニケーションの本質を捉え直し、新たな可能性を見出す機会であるとも言えます。まだご覧いただいていない方はぜひ、『ZIPPED』のパフォーマンスを通じて、身体が内包する豊かな「無言」の言語に触れ、身体の声に耳を澄ませてみてください。

今回はこのフェスティバルの模様を、参加アーティスト、観客、ライター、カメラマンなど、それぞれの視点から、ZIPPEDの本番や、開催までの各フェーズでは何が起こっていたのかを振り返り、パフォーミングアーツと配信の未来について考えていきます。

無言に耳をすますパフォーマンスフェスティバル『ZIPPED』(オンデマンド配信中)
https://www.spiral.co.jp/topics/spiral-hall/zipped

―― まずはこれまでゼロコさんがどんなフィールドで活動されてきたのかなど、プロフィール的なところを教えてください。

濱口:ゼロコは言葉を使わないパントマイムとか、道化の手法であるクラウニングを使った表現活動をしている2人組です。メガネが濱口で、メガネ無しが

角谷:角谷です。

濱口:はい。今までの活動のフィールドは主に大道芸や劇場で、あとは変わった場所としてカフェや電車の中、古民家など、色々な空間を使ってパントマイムやクラウニングを使った表現を発表しています。これまで海外でも活動してきまして、主にヨーロッパが多いですが、イギリス、ドイツ、フランス、オーストリア、スイス、あとは……

角谷:ドイツ……

濱口:ドイツ、は言ったね(笑)。あとアジアではタイとか、そのあたりですかね。海外のストリートフェスティバルや、演劇祭によく参加しています。2019年に参加したのが「世界で一番大きな芸術祭」と言われているスコットランドのエジンバラ・フェスティバル・フリンジなんですけど、「Zeroko’s Teatime」という作品で Asian Arts Awards 2019 の Best Comedy 賞をいただきました。

2020年代々木公園での大道芸の様子

―― 大道芸というと屋外で投げ銭式で行われ、技を見せることが中心になるイメージがありました。室内や劇場で行うような演目も一般的なのでしょうか。

濱口:パントマイムはイリュージョン的というか、幻想を作り出すという一面があります。(動きによって架空の)壁が見えたり、そういった部分が大道芸や舞台とも相性が良いので、舞台でパントマイムを行う人が大道芸へ行ったり、大道芸でやられている人が劇場に来たり、という関係性があると思います。パントマイムには両方のフィールドで活動している人も多いですね。どちらかだけ、という人ももちろんいますけど。

―― なるほど。ちなみにノンバーバルというのはジャンルではなく、言語を使わないというやり方ですよね。ノンバーバルな表現ですと、やっぱり海外にもそのまま持っていけたりするんでしょうか。

濱口:そうですね。ほとんどそのまま持っていきますが、ジェスチャーなどに多少の違いはあります。例えば大道芸には最後に投げ銭を貰うという文化があるんですけど、そこでの「お金」のジェスチャーが日本だとこう(親指と人差し指で輪を作る)ですけど、海外ではこう(親指と人差し指をこすり合わせる)だったり。そういった微妙な違いはあるんですけど、基本的には日本で笑いが起きるところでは海外でも同じように笑いが起きます。なので大幅に変更っていうことはあまり無いかな。

角谷:全く同じものを持って行っているような感じです。

濱口:文化的に気をつけなくちゃいけないようなこと、失礼にあたるようなジェスチャーとか、そういったことにはあらかじめ気をつけています。

日常のなんでもないことを面白がる

『Silent Scenes』(2020) メインビジュアル
Photo : Ohamagraph

―― 今回お声がけするきっかけにもなった舞台公演『Silent Scenes』について、どのような公演だったのかお聞かせいただけますか。

濱口:『Silent Scenes』は2020年の2月に発表した作品で、「サイレント」がキーワードのものを集める・探る、というのがコンセプトでした。沈黙・静けさ・静寂、これらの3つの言葉にも微妙なニュアンスの違いがあって面白いんです。もともと僕たちも、パントマイムとか大道芸をやっている中で、そういったジャンルの中では比較的静かな表現をするタイプというか。「イェーイ!」っていうタイプよりも落ち着いて控えめなタイプ、アウトドアよりもどちらかと言えばインドアな感じで。そういう「静けさ」みたいなところに、僕たちは前から心地よさを感じていました。2人での打ち合わせも、沈黙の間がすごく多い方だと思います。そんな中で「サイレント」って日常にいっぱい転がっているなぁという当たり前のことに気づいた時、それらを集めてみたらどういった価値が生まれるのかな、と思ったのがキッカケです。自分たちの肌に合っている「サイレント」と、改めて向き合ってみようと。

角谷:さらに、「サイレント」という表現をしている僕たちが「サイレント」をテーマにすることで、表現方法とテーマの両方で同じようなことをやってるんですけど、そこに向かい合った時に面白い反応が出るんじゃないかということもありました。

濱口:二重構造になっているんですよね。僕たちが言葉を使わないという意味で「サイレント」のパフォーマーでもあるし、舞台のコンセプトも「サイレント」。捉え方によってはややこしくもあるんですけど。

―― 『Silent Scenes』以前の作品では、どのようなテーマを扱っていたんですか?

濱口:色々なテーマをもとに作品を作ってきたんですけど、日常的なものが多いです。特別派手なこととか、サイエンス・フィクション的な要素よりも、日常にあるちょっとした違和感とか面白さをピックアップしています。

角谷:なんでもないようなことに目を向けてみたり、そういうところから拾い上げてきて広げる、テーマにする、みたいなことをやってきました。

濱口:ゼロコが一番長くやっている「Teatime」という作品があります。大道芸でも劇場でもやる作品なんですけど、それは「ただ紅茶を飲んでいる」というのがベースで、あとはその中で何が起こるのかな、という。喫茶店でお茶を飲んでいる人を眺めていられるような状態ってあるじゃないですか。そういった部分から着想を得ました。基本的には「日常を面白がる」というところが、僕たちの中では結構ポイントかな。

角谷:そうね。大事にしているところです。

ZIPPEDでのパフォーマンス Photo : Hajime Kato

―― 今回『ZIPPED』に向けて『Silent Scenes』をかなりアレンジしていただきましたが、再編成にあたってどのようなことを考えましたか。

濱口:いくつかあるんですけど、例えば『Silent Scenes』のテーマである「サイレント」と『ZIPPED』のテーマ「無言」って、親戚みたいな関係なんですけど、実は違うというか、似てるけど違う。今回「無言」がコンセプトだということを考える時間は、すごく面白かったですね。「サイレント」じゃなくて「無言」だ、ということ。いろんな咀嚼の仕方ができて面白かったです。

―― 『ZIPPED』では、「裏と表」というシーンを『Silent Scenes』から抜粋していただいたんですよね。

濱口:はい。「裏と表」は、舞台裏というのが僕たち舞台人にとって仕事柄一番意識する「静かにしなくちゃいけない場所」だなというところから着想を得ました。舞台裏というのは油断している姿とか、人前に出る顔じゃない、気が抜けている姿を見られる場所だなと。それに対して「舞台表」は気を張っている、ちょっと嘘の姿というか、カッコつけてる姿。そこの切り替えの面白さを、照明の変化によって表現しました。本来は「舞台表」をお客さんは見ているけど、舞台裏を同時に見せることで、そこでしか見えない姿を面白がっていく、という演目です。

言葉に変換する前の感情

―― 『ZIPPED』全体を通して、「無言・無音」というテーマに対して一番賑やかに向かっていったのがゼロコさんでした。テーマをどのように捉えていたのか、詳しくお聞かせいただけますか。

濱口:やっぱり「無音」って、音がないと作れないんですよね。それがすごく面白いなと。うるさい状況がまずあって、急に音がなくなるから「無音」を感じる。そういったことを今回の『ZIPPED』で改めて再認識しました。「無」っていう言葉自体、有るものがないと成立しないというか。

角谷:舞台裏の、サイレントを守らないといけない場所での展開をストーリーにしていたんですけど、僕たちは「明確な言葉を喋らない」っていうことをやっていて。ジブリッシュ(でたらめ語)でやりとりしている際に、言葉にする前の感情みたいなものをよく表現するんですけど、沈黙から始まった感情を表現することはやっぱり大事にしていかないとな、と思いました。……わかりますかね。

濱口:あー、行動する前の沈黙、っていうことなんだよね、たぶん。

角谷:喋る前、言葉が出る前の。

濱口:それって動きに対しても一緒で、静かに「お茶を飲みたい」って言う時に、……この、今もう「お茶飲みたい」って思っているけど、行動は後に付いてくる。みたいなこと?

角谷:いや、あの、「お茶飲みたい」って言う前の、感情。「飲みたい」って言葉に変換する前の、感情っていうんですかね。

濱口:ほう。

角谷:そこに本質がある、自分たちの。言葉って結構、人に対して説明する、共有するためのものじゃないですか。そのもっと手前の、感じ。

濱口:「飲みたい」っていう言葉と本当はちょっと違うかもしれない、そこの部分っていうことですね。はい。

―― それが大事だなと思って、そこからどうされるんですか?

濱口:それがジブリッシュだとできる、っていうことなんだよね?

角谷:例えば「飲みたい」って言うよりも、「あ……」ってやった方が、なんていうんですかね、出る、出る。言葉にせずに。……ってこと。

濱口:はははは(笑)

―― (笑) でも、すごくわかります。「お茶飲みたい」だけではなくて、例えば作品のステートメントを考えている時に、言葉にする前段階のもやもやとした思考や感情があるわけですよね。それを言葉としてアウトプットした瞬間に、おそらくそこには表現しきれずにこぼれ落ちてしまうものがある。言葉に乗らなかった感情や行動、もやもやしたうねりを、ジブリッシュや身体表現だったらまだ乗せられる、ということですよね、きっと。

濱口:うまくまとめてくれた。

―― それがゼロコさんのこれまでやってきた活動であり、得意な表現なのかもしれないですね。

濱口:これまででお察しの通り、僕たち言葉がちょっと苦手なんです。言語化するのが苦手で、だからこそこういう居場所があってよかったなと思いますし、こういった表現が受け入れられる世の中でよかった、と思っているところはあります。短所は長所じゃないですけど、そういう風に武器に変えて生きてってますね、はい。

―― そんな言葉が苦手なお2人でのクリエーション作業は、どういう感じで進めているんですか?

濱口:いろんなパターンがあるんですけど、どちらかというと僕が種を持ってくるタイプ、角谷さんがそれを膨らますタイプ、みたいな感じです。最近の作り方は、僕が面白いと思うアイデアを持ってきて、それを2人でなるべく早く動きにしてみる。やっぱり言葉で説明するよりも、身体で動いてみて体感して面白い/面白くないを判断する方が、僕たちの作り方としては良いんだなと最近は思っています。何も思いつかない、何もクリエーションが進まない時も「とにかく動く」ということをすると、意外と捗ることが多い。それで出たものを、頭で整理していく感じ。なので僕たちは身体言語で、もちろん台本に起こす作業もしますけど、面白い感覚とかそういった部分をどちらかというと身体で語り合う。で、面白かったらそれをキャッチして、逃さないように覚えておくという作り方が多いです。

僕たちは制限を楽しめるタイプ

―― 配信と舞台芸術について、何かお考えのことはありますか。感じているメリット・デメリットなどがあればお聞かせください。

濱口:コロナ禍で配信を何度かやりましたが、メリットはこれまで見たかったけど見られなかった人にも届けられる機会が増えたこと、ゼロコの存在を知らなかった人に知ってもらえたことです。せっかく作ったものを多くの人に見ていただけるという意味では、良さをすごく感じてますね。北海道や海外からも見てくれたりしました。

角谷:そうね、それが良い部分。悪い部分は……まだちょっと(わからないですが)、ライブで目の前のお客さんに対して(演技を)やって、そのお客さんが感じ取った温度でテンポや間が変わってきて、作品が同時にライブで作られていくというところが、配信になるともうちょっと違う形で取り組まないといけないのかな、ということとか。

濱口:まだわからないよね。

ZIPPED「裏と表」にて、配信画面の反応を気にするシーン
Photo : Hajime Kato

角谷:肌感として、今までずっと目の前のお客さんがいて成立していた自分たちの演技を、配信になったことによってどう変えていけばいいのかというのは、本当にこれから模索していかないといけないところで。新しい「戦う場所」でもあったりするのかなと思います。

濱口:かもしれないですね。変えていけばいいのかもしれないし、そこが居場所じゃないかもしれないし、そこはちょっとまだわからない。ただ、面白さは感じています。相互性、例えばチャットもそうですし、あとはコロナ禍で三重県の学校公演をオンラインでやったんですけど、その時は僕たちが映っている画面だけではなく、向こうの学校のリアクションも映像で全体を映してもらいました。「拍手をしてみてください」と言ったら拍手がちょっと遅れて聞こえてきたり、笑い声が聞こえてきたり。そういう相互性も含め、配信にもいろんなパターンがあるんだなと思いました。完全に一方向もあれば、チャットもあって、向こうのリアクションがわかるものもあって。なので、可能性はまだまだありそうです。去年は単独の配信ライブもやりましたし。一応、積極的に取り組んでいる方だとは思います。
まとめると、良さは多くの人に見てもらえること。良くないところは、やっぱり肌感とか生感の部分で配信先の人との相違が生まれること、そこがまだ掴み損ねているところですね。

―― お話を伺っていて、ゼロコさんは大道芸と劇場作品を作り上げることの両方ともお得意で、ノンバーバルという特性を活かして海外でもご活躍されているということで、フットワークが軽く、どこの世界にも接続しやすいのかなと感じました。今後はどんな方向、どんな世界へと向かっていきたいですか。

濱口:今、なんかあります?

角谷:わかんないです……。急にいろんなものが不安定になっちゃって。僕たちが「こうかな?」って思っていたことも、できなくなっちゃったり。

濱口:そうなんだよね。

角谷:なので、より柔軟にぼやかしてます、目的を。

濱口:(笑)なんかね、「こういうものなんだ」って思っても、次の日には考え方が変わっちゃうみたいなことを、繰り返していたのがコロナ禍だった。ただコロナ禍でも配信とか、Zoomを使って何か面白いことをするというのを、一応結構早い段階でやってはいました。ちょっと前には、配信で「お題をください」と言って視聴者からお題をもらって、そこから24時間以内にリモートで作品を作り、発表するというのを2回ぐらいやりました。僕たちは結構制限を楽しめるタイプで、制限がある方が作りやすかったりします。
なので、続けていく表現形態としてはやっぱりライブ、大道芸や劇場など生のライブエンターテイメントに必ず重点を置くんですけど、映像やライブ配信もまだ否定するのではなくて、共存していく、面白みを探っていくということは今後もしてみたいです。知らないことを知れるのも面白いですし、制限があることも面白い。そもそも僕たち「言葉を使わない」という制限を自分から選んでいるので。「今を楽しんで継続する」というざっくりした答えにはなりますけど、舞台もやっていくし、大道芸もやっていくし、という感じです。

―― 角谷さんはいかがですか。

角谷:や、もう……、そうです。

濱口:ほんと?(笑)

角谷:うーん。

濱口:最近は「研究をしたいな」ということも思ってます。「なんでこれが面白いのか」とか、感覚的に作ることが多いので、もっともっと実験的なことをしてみたいです。わかりやすすぎるものだけではなくて、自分たちよがりの作品とか実験、ワークショップ、そういったことをやっていきたいなと。ちょうど僕たちも探っている段階です。

角谷:手探り段階、です。

ZIPPEDでのパフォーマンス Photo : Hajime Kato

―― ありがとうございます。最後に『ZIPPED』全体のご感想があればお聞かせください。

濱口:今回『ZIPPED』全体を見た時に思ったことの一つに、「キャスティングが素晴らしいな」と思いました。いろんなものを観てきた人にしか出来ないようなキャスティングですし、みんなが誰とも似ていない。しかも、例えば「この人が目的で見た」「ダンスが好きで」「パントマイムが好きで」とか、いろんな人が見ても新しい表現に出会えるようなフェスティバルだったんじゃないかなと思います。特にコロナ禍で家にいる時間が多くなって、自分の趣味や自分の好きなものばかり見るような時間が増えている中で、新たな刺激を加えられた人がいるんじゃないかと思いましたし、僕たち自身も全然知らなかった人たちばかりだったので、刺激をめちゃくちゃ受けました。

角谷:あと、普通のことを言っちゃうんですけど、こういう企画、「無言に耳をすます」というのが今だからこそ生まれた企画であって、僕たちみたいな表現をしてる人たちにとっては、こういうテーマのフェスティバルを作ってくれたことが本当に嬉しかったです。「来た!」と思いました。ただ、配信になってしまったというのはしょうがない事態ではあったんですけど、「無言に耳をすます」という空間を、目の前で、お客さんと一緒に感じたかったし、感じてもらいたかったです。なので、ぜひ第二弾もやっていただけたらめちゃめちゃ嬉しいです。

PROFILE

  • ゼロコ

    角谷将視(かどやまさし・三重出身)と濱口啓介(はまぐちけいすけ・徳島出身)によるフィジカルシアターデュオ。パントマイムや、道化師の手法であるクラウニングをベースに、緻密さと即興性を持ち合わせた遊び心あるパフォーマンスを発表している。
    発表の場は劇場のみならず、カフェや電車内、古民家、ストリートなど多岐に及ぶ。2017年からは、海外での演劇祭やストリートパフォーマンスフェスティバルへも招聘され、活動を広げている。2019年には世界最大の芸術祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」にてAsian Arts Awards 2019のBest Comedy賞を受賞した。

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